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業務上過失致死傷罪の概要と要件・刑罰

ニュースなどでよく「業務上過失致死傷」といった用語が使われます。

何となく意味を知っているという方が大半でしょうが、正確には「業務上」とは何を指すのでしょうか。また、どのような事件が業務上過失致死傷罪になるのでしょうか。

以下においては、業務上過失致死傷罪の意義等、自動車運転と業務上過失、業務上過失致死傷罪の具体例などに触れながら、業務上過失致死傷罪について解説することとします。

なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

1.業務上過失致死傷罪の意義等

(1) 一般的説明

本罪は、業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させることによって成立します(211条前段)。

業務上の地位という身分に基づく過失傷害罪及び過失致死罪の加重類型を規定したものです。

そのため、業務上過失が、一定の仕事を反復継続して行う地位にある者が犯す過失ということから、通常の過失犯に比べ刑が加重されるのです。

業務上過失が重く罰せられる理由としては、

  1. 業務者には特別に高度の注意義務が課せられているからとする説
  2. 通常人よりも広範囲にわたって結果を予見する能力を有するからであるとする説
  3. 危険な仕事を行う者に対する一般予防の見地からであるとする説

などがありますが、1説が通説となっています。

(2) 主体

本罪の主体は、死傷の結果を惹起しやすい一定の業務に従事する者です。

(3) 業務

業務とは、一般に、人がその社会生活上の地位に基づき反復継続して従事する仕事をいいますが(大判昭10.11.6刑集14・1114等)、本罪の業務は、犯罪の性質上、他人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるものでなければなりません(最判昭33.4.18刑集12・6・1090)。

(4) 業務の範囲

業務の範囲は、自動車・汽車・電車・船舶・航空機等の運転・操縦、土木・建築・鉱山・工場等の作業、各種危険物・食品・医薬品の製造販売、医師・看護師の医療行為などかなり広いものになります。

(5) 反復継続

業務について、重要になるのが、反復継続して行うという点です。

すなわち、この要件を充たしている限り、本来の事務であるか付随する事務であるかを問わないのです。

したがって、例えば、

  • 医師が往診の際自ら自動車を運転すること(大判昭14.5.23刑集18・283)
  • トラックの運転手が余暇に遊びのため自動車を運転すること(大判昭13.12.6刑集17・901)

などは、いずれも「業務」に当たります。

ただし、これらの事例で、その運転中に人に死傷させた場合は、後述するように、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転死傷処罰法」といいます。)で処罰されることになります。

また、「業務」は、適法なものである必要はなく、例えば、無免許者の自動車運転も「業務」になります(最決昭32.4.11刑集11・4・1360)。

なお、収入や利益を得る目的で行われることも必要としませんし、反復継続の意思があれば、1回の行為でも「業務」に当たると解されています。

(6) 処罰

5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金が科せられます。

2.自動車運転と業務上過失死傷

近年、自動車運転による死傷事案についての実情や意見等にかんがみ、事案の実態に即した罰則整備を行う必要性から、法改正がなされてきました。

すなわち、従来、業務上の過失に基づき人を死傷させた罪については、自動車運転による死傷事案も含め、業務上過失致死傷罪(旧211前段)で処理されてきましたが、

  • 平成13年法律第138号により、危険運転致死傷罪(旧208条の2)が新設
  • 平成16年法律第156号により、同罪の懲役刑の上限が「10年以下」から「15年以下」に改正
  • 平成18年法律第36号により、業務上過失致死傷罪(旧211条1項)の罰金刑の上限が「50万円以下」から「100万円以下」に改正
  • 平成19年法律第54号により、「四輪以上の自動車」とされていた危険運転致死傷罪の対象が「自動車」と改められ、二輪車にも適用されるよう改正
    自動車運転過失致死傷罪(旧211条2項)が新設され、同罪の刑の上限が、業務上過失致死傷罪(旧211条1項)の「5年以下の懲役又は禁錮」よりも重い「7年以下の懲役若しくは禁錮」と規定

されたのです。

さらに、平成25年法律第86号により、自動車運転死傷処罰法(自動車の運転による死傷事犯全般に対する罰則を内容とするもの)が成立し、平成26年5月20日から施行されているのです。

自動車運転死傷処罰法に関しては、「自動車運転死傷処罰法とは?交通事故被疑者・被害者必見の新設法律」の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

これに伴い、危険運転致死傷罪(旧208条の2)及び自動車運転過失致死傷罪(旧211条2項)は削除され、自動車の運転上の過失に基づき人を死傷させた罪については、上記法律に「過失運転致死傷罪」(自動車運転死傷処罰法5条⇒7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金が科せられます。)として規定されました。

3.業務上過失致死傷罪の具体例

(1) 鉄道事故

軌道上で保線作業中の作業員4名が電車に撥ねられて死亡した事故について、

保線作業中列車看視の業務従事者には、接近してくる電車の有無を常に確認して、作業員に電車の接近を知らせて避難させる義務があり、また、電車運転手には、前方を注視して進路の安全を確認すべき義務があるのに、両名それぞれの過失が同時に重なった結果、作業員4名に電車を衝突させて死亡させたものであって、両名には上記事故の発生を未然に防止するという業務上の注意義務を怠った過失があり、それぞれ業務上過失致死罪が成立する(被告人両名=禁錮2年・執行猶予4年)。⇒名古屋地判平8.2.23判タ916・250(確定)。

(2) 航空事故

実地訓練中の航空管制官(以下「訓練管制官」という。)が便名を言い間違えて上昇中の航空機(甲機)に対し降下指示を出した結果、この降下指示に従って降下していた甲機の機長が、他の航空機(乙機)と接近し、両機の衝突を避けるため、急降下の操作をしたため、搭乗中の乗客らが跳ね上げられて負傷した事故について、

訓練管制官の言い間違いによる降下指示は、便名を言い間違えることなく乙機に対して降下指示を与えて、甲乙両機の接触、衝突等の事故の発生を未然に防止するという航空管制官としての業務上の注意義務に違反したものであり、また、その指導監督者である航空管制官(以下「指導管制官」という。)が、訓練管制官が乙機に対し降下指示をしたものと軽信して、その不適切な管制指示に気付かず是正しなかったことも、訓練管制官による不適切な管制指示を直ちに是正して上記事故の発生を未然に防止するという、訓練管制官の実地訓練の指導監督者としての業務上の注意義務に違反したものというべきであるところ、これら過失の競合により、本件ニアミスを発生させたのであって、両名につき、それぞれ業務上過失傷害罪が成立する(訓練管制官=禁錮1年・執行猶予3年、指導管制官=禁錮1年6月・執行猶予3年)。⇒最決平22.10.26刑集64・7・1019(日航機ニアミス事件)。

(3) 医療過誤事故

女子高校生(当時16歳。以下「患者」という。)が、埼玉医科大学総合医療センターで滑膜肉腫という難病の診断を受け、主治医からVAC療法(硫酸ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロフォスファミドの3剤を投与する療法)を受ける際、主治医が、薬剤投与計画書が週単位で記載されているのを日単位と間違えて、硫酸ビンクリスチン2mgを12日間連続投与するものと誤解し、その説明を指導医及び耳鼻咽喉科科長兼教授(以下「科長」という。)にしたところ、両名もそれを了承した。

科長は、その際、主治医に対し、VAC療法の具体的内容やその注意点については説明を求めず、投与薬剤の副作用の知識や対応方法についても確認しなかった。

そのため、患者に硫酸ビンクリスチンが連日投与され、途中で重篤な副作用が出ているにもかかわらず何らの指示も出されないまま、患者は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与による多臓器不全により死亡した。

第1審(さいたま地判平15.3.20)は、主治医に対し、

誤った抗がん剤の投与計画を立てて連日硫酸ビンクリスチンを投与した過失及び高度の副作用が出ていたのに適切な対応をとらなかった過失、指導医及び科長に対し、①誤った投与計画を漫然と承認し過剰投与させた過失、②副作用に対する対応について主治医を事前に適切に指導しなかった過失をそれぞれ認定

し、主治医を禁錮2年・執行猶予3年(確定)、指導医を罰金30万円、科長を罰金20万円に処した。

指導医及び科長の控訴を受けて、第2審(東京高判平15.12.24)は、指導医及び科長の①の過失については、第1審判決の認定を是認したが、第1審判決が、副作用への対処義務を認めず、②の指導上の過失のみを認めたことには、事実の誤認があるとして破棄・自判し、指導医を禁錮1年6月・執行猶予3年(確定)、科長を禁錮1年・執行猶予3年に処した。科長が上告した。

最高裁は、

治療方針等の最終的な決定権を有する科長には、抗がん剤による治療の適否とその用法・用量・副作用などについて把握した上で、投与計画案の内容を具体的に検討して誤りがあれば是正すべき注意義務を怠った過失と、主治医らの抗がん剤の副作用に関する知識を確かめ、的確に対応できるように事前に指導するとともに、懸念される副作用が発現した場合には直ちに報告するよう具体的に指示すべき注意義務を怠った過失があり、業務上過失致死罪が成立するとして、上告を棄却した。⇒最決平17.11.15刑集59・9・1558(埼玉医大投薬ミス事件)。

(4) 火災事故

ホテルの客室から出火し、スプリンクラー設備やこれに代わる防火区画が設置されておらず、従業員らにおいても適切な初期消火活動や宿泊客らに対する通報、避難誘導等ができなかったため、多数の宿泊客らが死傷した火災事故において、

ホテルを経営する会社の代表取締役社長として、ホテルの経営、管理業務を統括する地位にあり、その実質的権限を有していた者には、スプリンクラー設備又はこれに代わる防火区画を設置するとともに、防火管理者を指導監督して、消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき注意義務を怠った過失があり、業務上過失致死傷罪が成立する(禁錮3年)。⇒最決平5.11.25刑集47・9・242(ホテルニュージャパン火災事件)。

4.まとめ

過失傷害罪・過失致死罪と業務上過失致死傷罪では、刑罰が大きく異なることがご理解頂けたかと思います。

刑事事件は自分が思った以上に重大な事件になことが多いですので、お早めに刑事事件に強い専門家にご相談ください。

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