刑事弁護 [公開日]2017年12月26日[更新日]2018年2月16日

即決裁判手続とは?対象事件と要件、略式手続との違いまで徹底解説!

即決裁判手続とは?対象事件と要件、略式手続との違いまで徹底解説!

通常の刑事裁判手続は、人定質問、起訴状の朗読、黙秘権の告知、罪状認否、検察官の冒頭陳述、証拠調べ、論告、弁論を経て判決に至ります。
そして、証拠の採否及び取調べの方法については刑事訴訟法(以下「刑訴法」といいます。)等の法律における厳格なルールに従います。

しかし、事案明白であり軽微な事件について、常に通常の刑事裁判手続に従い審理を行うことは、被告人の刑事裁判手続に関わることによる精神的負担あるいは社会全体における訴訟経済の観点から望ましいとはいえません。

そこで、一定の刑事事件について、通常の刑事裁判の手続を簡略化して迅速に事件を終結させるための手続として、平成18年、即決裁判手続は導入されることになりました。

以下、「即決裁判手続」の詳細を解説します。

1.即決裁判手続の要件

(1) 対象となる事件

まず、即決裁判手続の対象となる事件は、事案明白かつ軽微であること、証拠調べの速やかな終了の見込があることなどの事情を考慮して相当と認められるものに限定されています(刑訴法350条の2第1項本文)。

また、死刑又は無期もしくは短期1年以上の懲役・禁錮に当たるような重大犯罪は除外されます(同項但し書き)。

(2) 被疑者及び弁護人の同意

最終的に即決裁判手続により判決するには、即決裁判手続によることについての被疑者・被告人及び弁護人の同意を必要とします(刑訴法350条の2の第2項及び第4項)。

これは、即決裁判手続による判決は、簡略化された手続による有罪判決であるため、最終的に刑罰という不利益を課せられる被疑者・被告人及びその弁護人の意思を尊重する趣旨です。

したがって、即決裁判手続によることについての同意に関する確認及び意見表明は慎重に行うべきものであり、かつ、裁判所の確認対象となるため、必ず書面により行われ、記録化されます(刑訴法350条の2第3項及び第5項)。

また、被疑者としては即決裁判手続によることについての同意に関して弁護士の助言等を求めたい場合があるでしょうし、また、最終的には、その弁護人の同意を必要としますから、適宜、被疑者の請求あるいは裁判長の職権により国選弁護人を選任できることになっています(刑訴法350条の3)。

2.即決裁判手続の特徴

(1) 手続の迅速性

即決裁判手続の第1回の公判期日は、原則、起訴後14日以内に指定され(刑訴法350条の7、同法規則222条の17)、即日判決となります(刑訴法350条の13)。

このような手続の迅速性は即決裁判手続の特徴の1つです。

(2) 手続の簡略化

手続の迅速性に関連する特徴として、即決裁判手続では、通常の刑事裁判における証拠調べの方式は大幅に緩和されています(刑訴法350条の12)。

なお、このような簡略化された手続により判決する関係から、被告人の公判期日の出頭義務は徹底されており、また、即決裁判手続に関する公判期日は弁護人のいない場合には開くことはできません(刑訴法350条の10第1項、同法284条、同法350条の9)。

(3) 判決内容の制限

即決裁判手続による判決において、被告人に懲役・禁錮の刑を科す場合には、必ず刑の全部について執行猶予を言い渡します(刑訴法350条の14)。

ここでは、簡略な手続により有罪判決を下すことの反面、その判決内容に制限を設けているのです。逆にいえば、即決裁判手続を相当とする事件というのは執行猶予相当の事件であるといえます。

(4) 控訴理由の制限

他方、即決裁判手続によることを同意した以上、その判決に対して、事実誤認を理由として控訴することはできません(刑訴法403条の2、同法384条)。

3.即決裁判手続は略式手続

即決裁判手続に似た制度として略式手続という制度があります。略式手続というのは、簡易裁判所が、公判を開くことなく、書面上の審理により、簡易裁判所の扱うことのできる事件について、100万円以下の罰金・科料を科す手続です(刑訴法461条~470条)。

即決裁判手続と略式手続の根本的な違いは、即決裁判手続は簡略化されているとはいえ公判手続であるのに対して、略式手続は書面上の審理であり、公判手続ではないことです。

また、略式手続では必ず罰金・科料を科すことになりますから、その点でも即決裁判手続とは異なります。

そして、略式手続は、被疑者の略式手続によることについて異議のないことを要件としていますが(刑訴法461条の2)、即決裁判手続のように弁護人の同意は必要ありません。

なお、略式手続においては、略式命令の告知日から14日以内に正式裁判を請求できます(刑訴法465条1項)。

4.即決裁判手続の利用率

(1) 即決裁判手続の利用率は低い

平成27年の統計によれば、実際の刑事裁判において、即決裁判手続の利用された被告人の数は568人であり、これは、通常の刑事裁判により判決を言い渡された被告人の数に対し約1%に過ぎません。

そして、平成27年において即決裁判手続の利用された事件の約70%は薬物事犯であるところ、これは、初犯の軽微な薬物事犯の場合、執行猶予はほぼ確実であること、薬物事犯には被害者は存在しないこと、薬物事犯においては現行犯逮捕されている場合あるいは客観性の高い物証の存在していることが多いこと等から即決裁判手続を利用しやすい面があるからでしょう。

ちなみに、平成27年の略式命令請求された被告人は278,529人であり、これは起訴された被告人の約75%に当たります。

このように、即決裁判手続は略式手続とは異なり、実際には、あまり利用されていませんが、その背景には、以下の点が影響しているかもしれません。

(2) 利用されない理由

まず、即決裁判手続の対象事件は、簡易明白かつ軽微な事案であり執行猶予確実の事案とはいえ、懲役・禁錮を相当とする事案を含みますから、再犯防止等の観点から被告人に罪を犯したことの重大性につき自覚を促すため通常の刑事裁判手続を選択することは十分に考えられることです。

他方、通常の刑事裁判でも、自白事件であれば、1回の公判期日により審理を終了して、適宜、即日判決することもできるため、特に即決裁判手続における手続の迅速性は大きな利点にはならず、執行猶予確実の事案であれば通常の刑事裁判でも最終的に執行猶予を付されることになるでしょうから、即決裁判手続により執行猶予が約束されることも大きな魅力になりません。

5.即決裁判手続のメリットとデメリット

(1) 即決裁判手続のメリット

即決裁判の主たるメリットは、手続の迅速性と実刑の回避です。

即決裁判手続は先に説明したとおり、起訴後14日以内に指定された公判期日における即日判決により終了しますから被告人にとっては早期に刑事裁判手続から解放されることになります。

また、即決裁判手続による判決において実刑判決はあり得ませんから、その意味では、被告人にとって、早期に刑事裁判手続から解放され社会に復帰できることになります。

(2) 即決裁判手続のデメリット

他方、即決裁判手続のデメリットは、事実誤認を理由とした控訴はできないという制約に服すること、即決裁判手続によることは不相当であると裁判官に判断された場合には、通常の刑事裁判手続による(刑訴法350条の84号)ことになるという制度上の不確実性を内包している点でしょう。

6.即決裁判手続における弁護士の役割

即決裁判手続による判決を行うためには必ず弁護人の同意を必要としているように、同手続において弁護人となる弁護士の存在は不可欠となります。

また、被疑者・被告人としては自分自身の同手続によることについての意見を表明する必要があります。

即決裁判手続によることの妥当性は事案の内容に応じて様々ですから、その点につき、弁護士からの適切なアドバイスを必要とするでしょう。

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