刑事弁護 [公開日]2018年4月16日[更新日]2023年11月29日

ホワイトカラー犯罪に関わってしまったら?定義と事例を紹介

ホワイトカラー犯罪に関わってしまったら?定義と事例を紹介
ホワイトカラー犯罪」という言葉をご存知でしょうか?
会社経営者やビジネスマンなどが関わる犯罪を「ホワイトカラー犯罪」と呼ぶことがあります。

テレビや新聞などで報道される犯罪といえば、殺人事件や強盗事件のように、人の生命・身体にかかわるものが中心ですが、詐欺事件や横領事件のように財産・信用に関する犯罪もあります。
そして、財産・信用に関する犯罪では、会社経営者やビジネスマンといった、いわゆる「ホワイトカラー層」が犯人となるケースも多くみられます。

今回は、ホワイトカラー犯罪と刑事弁護について解説します。

1.ホワイトカラー犯罪とは?

(1) ホワイトカラー犯罪の語源

実は、法令上に「ホワイトカラー犯罪」という用語は存在しないため、明確な定義はありません。この用語は、1930年代にアメリカの社会学者によって生み出されたとされています。

ちなみに、「‐カラー」の部分はcolor(色)ではなく、collar(衣類のえり)を意味しており、「えりの白いシャツや背広を着ている人々」から転じて、会社経営者やビジネスマンを指す言葉として定着しています。

会社経営者やビジネスマン(=ホワイトカラー層)による犯罪だから、「ホワイトカラー犯罪」なのです。

(2) ホワイトカラー犯罪の定義

ホワイトカラー層が殺人事件や強盗事件を起こしても、ホワイトカラー犯罪とは呼びません。
ホワイトカラー犯罪とは、ホワイトカラー層が詐欺、背任、横領、贈賄などの財産・信用に関する罪を犯した場合に使います。

ここで挙げた詐欺、背任、横領、贈賄はいずれも刑法に規定がある刑法犯ですが、このほかにも脱税(税法違反)やマネーロンダリング(組織犯罪処罰法)のように、刑法以外の法令に基づく犯罪もあります。

また、会社内におけるセクハラやパワハラも一種のホワイトカラー犯罪である、という見解もあります。

先ほど説明したとおり、法令用語ではないため、完全な正解はありませんが、ひとまず「会社経営者やビジネスマンによる、財産・信用に関する犯罪」だと理解すればよいでしょう。

(3) ホワイトカラー犯罪の特徴

ホワイトカラー犯罪は、被害者や被害状況が分かりにくく、一見して犯罪とは分かりづらいのが特徴です。

たとえば、ビジネスマンが会社の財産を横領したり、任務に背いて会社に損害を与えたりしても、通常業務の中で行われるため、外観上は犯罪だと分かりません。そのため誰にも気付かれず、発覚までに時間がかかることもあります。

1995年に発覚した大和銀行の巨額損失事件では、ニューヨーク支店の行員が、変動金利債取引で5万ドルの損失を発生させ、その後も簿外取引を繰り返して、結果的に11億ドル(当時のレートで約1100億円)の損害になりました。

損害が膨らむ一方で、12年間も発覚しなかったため、最後には、耐えられなくなった行員が自ら銀行上層部に手紙を送って事件が発覚しました。

(4) 企業犯罪との違い

ホワイトカラー犯罪に類似する概念として「企業犯罪」があります。
企業犯罪とは、企業が経済活動をするうえで違法行為を犯し、犯罪と評価されるケースです。

企業犯罪は、社会に与える影響も大きく、信用が失墜すれば企業の存続にかかわることもあります。実際、近年の企業倒産の傾向を分析すると、コンプライアンス違反が倒産の引き金になる例も多くみられます。

もちろん、企業(法人)が直接行動して罪を犯すことはできないので、実際には、経営者や従業員が法令違反を犯しています。
たとえば、リコール隠しや性能偽装などの違反行為を実際に行うのは経営者や従業員ですが、結果として「企業の犯罪」となります。

したがって、「ホワイトカラー犯罪」と「企業犯罪」は、リンクする場面が多いといえるでしょう。

2.ホワイトカラー犯罪の処罰の傾向

ホワイトカラー犯罪に対する処罰の傾向

(1) 不起訴処分となるケースが多い

検察官が犯人と思しき者(被疑者)を取り調べ、処罰の必要性があると判断した場合には、刑事裁判を起こすために裁判所に起訴状を提出します。これが「起訴」と呼ばれる手続きです。

しかし、検察官も取り調べたすべての事件を起訴するわけではありません。
たとえば、「疑わしいが証拠が不十分」「軽微な犯罪で起訴するほどでもない」という場合には、起訴を見送ることもあります。これが「不起訴処分」です。

ホワイトカラー犯罪の場合は、次のような理由から不起訴処分で終わるケースも多くみられます

  • ホワイトカラー層は前科がないことが多く、再犯の可能性も低い。
  • 主に財産犯罪であるため、被害者と示談できる場合が多い。
  • 人の生命・身体に危害を加える犯罪と異なり、社会的な危険性が低い。

(2) 量刑が軽い

不起訴処分が多いとはいえ、一定数は起訴されて刑事裁判となります。
しかし、ホワイトカラー犯罪の場合、刑事裁判になっても「量刑が軽い」という傾向があります。

もっとも、正確には、「人の生命・身体に関する犯罪は重く処罰され、それと比較すればホワイトカラー犯罪の量刑は軽い」と表現するべきでしょう。

量刑とは、裁判所が判決で下す処罰の内容です。刑事裁判のニュースで「懲役3年、執行猶予5年の判決」といったフレーズをよく耳にしますが、これが量刑です。
もともと法律で刑罰の上限・下限が決まっていて、裁判所はその枠内で量刑を言い渡すのです。

たとえば、殺人罪(刑法199条)の刑罰は、「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」、強盗罪(刑法236条)の刑罰は「5年以上の有期懲役」です(※強盗とは、財産を奪い取るために人を暴行・脅迫するので、生命・身体に関する犯罪でもあるのです)。

これに対し、ホワイトカラー犯罪で代表的な背任罪(刑法247条)の刑罰は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」、業務上横領罪(刑法253条)は「10年以下の懲役」であり、人の生命・身体に関する犯罪よりも軽い量刑が設定されています。

3.ホワイトカラー犯罪で逮捕されたらどうなる?

(1) 逮捕による不利益は存在する

不起訴処分が多い、量刑が軽い、といってもあくまで一般的な傾向にすぎません。
「不起訴処分になるかどうか」「量刑が軽いかどうか」と「逮捕」は別問題です。

警察も手当り次第に逮捕はできませんが、「逃亡のおそれ」や「証拠隠滅のおそれ」があると判断されれば、あなたが逮捕される可能性も十分にあるのです。

もし逮捕された場合には最大3日間の拘束が続き、勾留決定が出された場合にはさらに追加で最大20日間拘束される可能性があります。

これだけ長期間にわたって出社できない状態が続けば、会社の業務だけでなく社会生活にも大きな不利益が生じるでしょう。

そこで、もし逮捕をされてしまったり、逮捕されそうな状況にあったりするならば、弁護士に相談して刑事弁護をしてもらうことをおすすめします。

(2) 早期に弁護士に相談するメリット

取り調べのアドバイスをもらえる

「もし自分が取り調べに呼び出されたら……」とイメージしてみてください。
取り調べにどう臨めばいいのか、不利にならないよう注意する点はないか、何か準備しておくものはないか。不安や疑問が続々と出てくるはずです。

取り調べに不安がある場合には、弁護士にアドバイスを求めることができます。

また、そのまま逮捕・勾留されてしまうと、弁護士とは「接見」という限定的な条件でしか相談できなくなります。

逮捕前などの早い段階から相談していれば、弁護士も事案の内容やあなたの言い分をよく把握しています。
結果として、万一、逮捕されたり起訴されたりした場合にも、安心して刑事弁護を依頼することができます。

近い将来に逮捕される不安がある場合には、迷わず早期に弁護士に相談しておきましょう。

警察による取り調べに関しては、以下のコラムでも詳しく解説しています。

[参考記事]

警察による取り調べの対応策を弁護士がアドバイス

逮捕を回避できる可能性がある

犯罪の性質や被害金額にもよりますが、横領などであれば、被害を弁償して示談しておくことで、逮捕自体を回避できる可能性もあります。
逮捕された場合の不利益は甚大ですから、逮捕を回避できるチャンスがありながらそれを逃してしまうのはもったいないことです。

示談交渉も弁護士の仕事です。被疑者の代理人として示談交渉をスムーズに行いますので、安心してお任せください。

4.まとめ

ホワイトカラー層は、一般的に頭脳労働者ですので、能力や社内外の地位が高い人も多く存在します。
そして、「社内的に地位が高く、チェックを受ける立場にない」「専門的かつ高度な業務のため、不正をしても他の社員には見抜けない」など、ホワイトカラー層の権限や地位を悪用することでホワイトカラー犯罪が発生してしまいます。

また「会社や組織のために」という大義のせいで罪の意識が薄れていることもあります。
たとえば、脱税や贈賄などで自分がお金を得るわけではなく、あくまで会社や組織の利益だけを目的とすることも珍しくありません。

もっとも、昨今ではコンプライアンス経営が求められ、企業不祥事には厳しい目が向けられています。「会社のためにやった」という理由で正当化はできません。

ホワイトカラー犯罪は他の一般犯罪と異なる特徴もありますが、逮捕・勾留や刑事裁判の手続きは基本的に同じです。
逮捕前から弁護士に相談しておくのと、逮捕や起訴されてから動き始めるのとでは大きな違いがあります。

ホワイトカラー犯罪に関与してしまった場合には、早期に刑事事件に詳しい泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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