不正アクセス禁止法の解説〜目的、違反要件、罰則・刑罰について

法律

不正アクセス禁止法の解説〜目的、違反要件、罰則・刑罰について

1.はじめに

情報技術の発展に伴い、インターネットを中心としたコンピュータ・ネットワークを正しく運用することは、高度情報通信社会の健全な発展にとって不可欠なことです。

ハイテク犯罪に対する技術的・法的対応の強化が指摘され、国際社会からも、法整備を迫られていたという背景の中で、コンピュータ・ネットワークへの不正アクセス自体を犯罪として処罰する「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(以下「不正アクセス禁止法」、あるいは、単に「法」といいます。)が、平成11年8月13日に公布され、平成12年2月13日から施行(ただし、一部の規定は、同年7月1日から施行)されたのです。

その後も、社会的な要請に応じて、規定の見直しと罰則の強化が図られています。

以下では、まず、不正アクセス禁止法の目的を確認し、次いで、不正アクセス禁止法に違反した場合、どのような罪に問われ、また、どのような刑罰が科されるのかなどについて、順次、解説していくこととします。

不正アクセス禁止法の内容を理解する上で欠かせない用語の説明については「理解する上で欠かせない!不正アクセス禁止法の用語解説」をご参照ください。

2.目的

不正アクセス禁止法は、不正アクセス行為を禁止するとともに、これについての罰則及びその再発防止のため不正アクセス行為を受けたアクセス管理者に対する都道府県公安委員会による援助措置等を定めることにより、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的としています(法1条)。

このように、法は、不正アクセス行為等の禁止・処罰という行為者に対する規制と、不正アクセス行為を受ける立場にあるアクセス管理者に防御措置を求め、アクセス管理者がその防御措置を的確に講じられるよう行政が援助するという防御側の対策という2つの側面から、不正アクセス行為の防止を図ろうとするものです。

そして、ここにいう「電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪」とは、コンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを対象として行われる電磁的記録不正作出罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、電子計算機使用詐欺罪等と、コンピュータ・ネットワークを通じて、これに接続されたコンピュータを利用して行われる銃器・薬物事犯、詐欺事犯、わいせつ事犯等(電子掲示板やウェブサイトを利用したもの等)の両方を指しています。

3.罰則・刑罰

⑴ 不正アクセス罪

不正アクセス罪は、不正アクセス行為をした場合に、成立する犯罪です(法3条)。
不正アクセス罪を犯した者は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(法11条)。

法は、不正アクセス行為について、次の3類型を規定しています。

・第1の類型は、アクセス制御機能のある特定電子計算機に対し、他人のID・パスワードを入力して、制御されている利用を可能にする行為(法2条4項1号)です。

・第2の類型は、アクセス制御機能のある特定電子計算機に対し、特殊な情報又は指令を入力して、制御されている利用を可能にする行為(法2条4項2号)です。

・第3の類型は、ネットワークで接続された他の特定電子計算機のアクセス制御機能によって利用が制限されている特定電子計算機に対し、特殊な情報又は指令を入力して、制御されている利用を可能にする行為(法2条4項3号)です。

・第2、第3の類型は、攻撃用プログラム等を用いて特殊なデータを入力し、アクセス制御機能を回避して、ID・パスワードにより制限されているコンピュータの機能を利用する行為ということになります。

⑵ 不正取得罪

不正取得罪は、不正アクセス行為の用に供する目的で、他人のID・パスワードを取得した場合に、成立する犯罪です(法4条)。
不正取得罪を犯した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(法12条1号)。

「不正アクセス行為の用に供する目的」とは、取得者自身に他人のID・パスワードを用いて不正アクセス行為を行う意図がある場合のほか、第三者に不正アクセス行為を行う意図がある場合に、そのことを認識しながら当該第三者にID・パスワードを提供する意図を持って取得する場合のことをいいます。

取得」とは、ID・パスワードを自己の支配下に移す行為のことをいいます。具体的には、ID・パスワードが記載された紙や、ID・パスワードが記録されたUSBメモリ、ICカード等の電磁的記録媒体を受け取る行為、自らが使用する通信端末機器の映像面にID・パスワードを表示させる行為、ID・パスワードを知得する行為(再現可能な状態で記憶する行為)等がこれに該当します。

⑶ 不正助長罪

不正助長罪は、業務その他正当な理由による場合を除き、他人のID・パスワードを第三者に提供した場合に、成立する犯罪です(法5条)。

提供者が提供行為を行うに当たり、提供の相手方に不正アクセス行為の用に供する目的があることを知りながら、不正助長罪を犯した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられ(法12条2号)、その認識なしに、不正助長罪を犯した者は、30万円以下の罰金に処せられます(法13条)。

「業務その他正当な理由による場合」とは、社会通念上、正当と認められるような場合のことをいいます。例えば、情報セキュリティ事業者がインターネット上に流出しているID・パスワードのリストを契約している企業に提供する行為、インターネット上に流出している他人のID・パスワードを発見した者がこれを情報セキュリティ事業者や公的機関に届け出る行為、情報セキュリティに関するセミナーの資料等において、ID・パスワードのインターネットへの流出の実態を示すために実際に流出したID・パスワードのリストを掲載する行為、よく用いられがちな単純なID・パスワードを設定すべきでないものとして示す行為等が、「業務その他正当な理由による場合」に該当します。

提供」とは、ID・パスワードを第三者が利用できる状態に置くことをいいます。具体的には、「□□のコンピュータは、IDは☆☆☆、パスワードは◎◎◎である。」などと、ID・パスワードの情報を教える行為になります。教える方法は、口頭、電話、電子メール、文書、ホームページなど、その手段、方法は問いません。

⑷ 不正保管罪

不正保管罪は、不正アクセス行為の用に供する目的で、不正に取得された他人のID・パスワードを保管した場合に、成立する犯罪です(法6条)。
不正保管罪を犯した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(法12条3号)。

「不正アクセス行為の用に供する目的」とは、上記⑵のとおりです。

「不正に取得された」とは、正当な権限なく取得されたことをいいます。具体的には、法4条に該当する行為により取得されたID・パスワードや法5条に該当する行為により提供されたID・パスワード等がこれに該当します。

保管」とは、有体物の所持に相当する行為であり、ID・パスワードを自己の実力支配内に置いておくことをいいます。具体的には、ID・パスワードが記載された紙や、ID・パスワードが記録されたUSBメモリ、ICカード等の電磁的記録媒体を保有する行為、自らが使用する通信端末機器にID・パスワードを保存する行為等がこれに該当します。

⑸ 不正入力要求罪

不正入力要求罪は、正規のアクセス管理者のように装って、利用権者に対し、ID・パスワードを入力することを求める情報を公開したり、ID・パスワードを入力することを求める情報を電子メールで送信した場合に、成立する犯罪です(法7条)。
不正入力要求罪を犯した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(法12条4号)。

法7条は、いわゆるフィッシング行為を禁止する規定です。法7条のうち、1号が「サイト構築型」、2号が「メール送信型」になります。

偽のウェブサイト上にID・パスワードを入力するよう求める文章、入力欄及び送信用のボタンを表示して、ID・パスワードを入力させようとするのが「サイト構築型」で、偽の電子メールを送信して、電子メールの本文欄にID・パスワードを入力するよう求める文章、入力欄及び送信用のボタンを表示するか、あるいは、これらの情報が表示されるプログラムを添付して、電子メールそのものや添付ファイルにID・パスワードを入力させようとするのが「メール送信型」です。

法7条は、フィッシング行為を禁止することにより、ID・パスワードをだまし取られるのを、未然に防止しようとするものです。

4.処理状況

最近における不正アクセス禁止法違反の処理状況

⑴ 事件件数

犯罪白書によれば、検察庁終局処理人員は下記のようになっています。

  1. 平成25年度:総数124人(公判請求・5人、略式請求・26人、不起訴・54人、家裁送致・39人)
  2. 平成26年度:総数107人(公判請求・8人、略式請求・26人、不起訴・50人、家裁送致・23人)
  3. 平成27年度:総数181人(公判請求・15人、略式請求・25人、不起訴・115人、家裁送致・26人)
  4. 平成28年度:総数205人(公判請求・27人、略式請求・31人、不起訴・119人、家裁送致・28人)

上記の処理状況からみましても、逮捕や検挙の早い段階で、不正アクセス禁止法違反の事件に精通している弁護士が関与すれば、被疑者に有利となる結果が導かれると考えられます。

⑵ その他

許可なく他人のID・パスワードを使ってインターネットを通じて、LINEやFacebook、Twitter、Pixiv(ピクシブ)などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やメールシステムなどにアクセスするのは、明らかに不正アクセス行為に当たりますので、不正アクセス禁止法違反の罪に問われます。

5.実際に起こった事件

⑴ 最近の逮捕・送検事例

① 乗っ取ったパソコンの解除の「身代金」を要求するウィルス(ランサムウエア)を作成するツールを保管したとして、不正アクセス禁止法違反で家裁送致されていた少年を不正指令電磁的記録保管容疑で書類送検(平成27年8月、神奈川・東京)。

② 他人のIDやパスワードを使ってインターネットオクションサイトにアクセスしたとして少年を逮捕、送検(平成27年10月、大阪・神奈川)。

③ 立場を悪用して顧客の携帯電話のメールをのぞき見し、携帯電話会社の顧客情報管理システムにアクセスして自分の携帯電話に転送されるように設定したとして私電磁的記録不正作出・同供用や不正アクセス禁止法違反の疑いで携帯電話販売会社元社員を逮捕(平成28年1月、埼玉・東京)。

④ 職場から約1万人の個人情報を持ち出し、アイドルの非公開SNSをのぞき見していたとして県職員を個人情報保護条例と不正アクセス禁止法違反で逮捕(平成28年1月、岐阜⇒下記①の判決事例)。

⑤ 遠隔操作ウィルスを有料放送の無線視聴ができるソフトと装い、インターネットからダウンロードした他人のパソコンに不正アクセスし、個人情報を抜き取ったとして高校生を不正指令電磁的記録強要や不正アクセス禁止法違反で書類送検(平成28年2月、東京)。

⑥ 芸能人のフェイスブックやクラウドに不正アクセスして、閲覧したほか、パスワードを変更したとして逮捕・起訴(平成28年6月、長崎・東京)。

⑵ 最近の判決事例

① 横浜地川崎支判平28.4.26……1年3か月の間に、57回にわたって芸能人や職場同僚ら24人のヤフーメール等のアカウントに侵入したほか、1年2か月の間に、女性職員らの個人情報を入手したりしたとして、不正アクセス禁止法違反の罪などに問われた裁判(懲役1年6月・執行猶予3年[求刑・同]⇒上記④の逮捕事例)。

② 東京地判平28.6.20……4か月の間に、約140人分のIDやパスワードを使い、約1200回にわたって、他人のフェイスブックの非公開ページなどをのぞき見したとして、不正アクセス禁止法違反の罪に問われた裁判(懲役2年・執行猶予3年[求刑・同])。

③ 東京地判平29.4.27……他人の無線LANの暗号鍵を解読して無断で利用する「ただ乗り」をした電波法違反や、近隣の家に設置された無線LANを無断利用して5か月間にわたり、自宅のパソコンから銀行などのサーバに不正アクセスし、だまされた受信者が打ち込んだIDやパスワードで、自分の口座に計約520万円を送金させるなどした不正アクセス禁止法違反の罪などに問われた裁判(電波法違反の罪・無罪、懲役8年[求刑・懲役12年])。

6.逮捕後の流れ(示談)

⑴ 逮捕・勾留

不正アクセス禁止法違反の罪で逮捕されますと、一般の事件と同様、逮捕から48時間以内に検察官に送致され、検察官は、被疑者を受け取ってから24時間以内に裁判官に対し勾留の請求をすることになります。

裁判官が勾留を認めますと、原則10日間身柄拘束が続き、更に10日以内の延長が認められることもあります。そして、検察官は、捜査の結果を踏まえ、通常、勾留満期までに、被疑者を不起訴処分(起訴猶予)にするか公訴提起するかを決めます。

さらに、被疑者が起訴された場合(被告人となります。)には、釈放され、又は保釈が認められない限り、身体の拘束が続くことになります。公訴提起は、簡易裁判所(宣告刑としては罰金のみ)又は地方裁判所になされます。

裁判結果としては、罰金、執行猶予付、保護観察付執行猶予、実刑の判決が考えられます。

⑵ 示談

上記5の処理状況からも分かりますように、公判請求の割合は、略式請求、不起訴の数に比し少ないわけですが、被疑者が不正アクセス禁止法違反の罪で逮捕された以上、不正アクセスをされた被害者がいますので、被疑者に有利な処分結果が得られるためには、できるだけ、早い段階での謝罪や示談の成立が必要になってくると考えられます。

しかし、事案の内容によっては、上記6の事件紹介でも明らかなように、被害者が多数に及ぶ場合も想定されます。そうしますと、最終的な処分の見通しに明るく、刑事弁護、示談交渉に精通している弁護士に委ねるのが望ましいことになります。

7.不正アクセスをしたら弁護士に相談

不正アクセス禁止法違反は誰にでも起こし得る犯罪です。逮捕され、仮に罰金で終わったとしても、前科がつくことになりますので、弁護士に早期に相談してください。弁護活動により不起訴となり、前科がつかないで済む可能性があります。

泉総合法律事務所は、初回相談料が無料となっております。犯罪を犯してしまったかもしれないという方は、お早めに当事務所にご相談ください。

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