盗撮は証拠がないと捕まらないのか?
犯行現場で取り押さえられる現行犯逮捕ではなく、後日捜査機関に検挙されたならば、その事件について何らかの証拠が存在しているということです。盗撮事件も例外ではなく、盗撮が被害者や目撃者にバレたとして、現場から逃げた後に後日逮捕されるケースがあります。
盗撮の証拠と聞くと、携帯電話やスマートホンに残された盗撮のデータ(写真や動画)を思い浮かべると思いますが、盗撮の証拠はこれに限られません。盗撮データ以外の証拠で逮捕・起訴される可能性がありますし、画像データは警察により復元されますので、慌てて削除をしても無駄であると言えるでしょう。
ここでは、盗撮の証拠全般について説明します。
「盗撮がバレて思わず逃げてしまったが、目撃者の証言や防犯カメラ・監視カメラの映像で特定されてしまうの?」「盗撮で逮捕されるか不安だが、証拠が不十分ならば捕まらないの?」などとお悩みの方は、本コラムを参考の上で弁護士への刑事弁護依頼をご検討ください。
1.盗撮の証拠の種類
早速ですが、盗撮の証拠としては以下のものが考えられます。
(1) 盗撮した写真・動画
盗撮に用いた端末に盗撮写真(画像)や動画が残っていた場合、その画像や盗撮に用いた端末それ自体は、盗撮を行ったことを証明する重要な証拠となります。
仮に盗撮写真等を削除しても、写真等がウェブに即座に同期される機能を備えていた場合は、通信会社に盗撮写真の確認を求めることが可能になります。
また、電子機器等にある盗撮データを削除しても、多くの場合でデータを復元することが可能です。
なお、盗撮の罪で立件された後に自分の盗撮行為の証拠を隠滅した事実が明らかになれば、犯行を隠そうとする悪質な行為と評価され、起訴・不起訴の判断や裁判での量刑において不利な事情として考慮される危険があります。
(※盗撮機器のデータを隠滅しても、証拠隠滅等罪(刑法104条)は成立しません。証拠隠滅等罪は、「他人の刑事事件に関する証拠」を対象とするので、自分の盗撮行為の証拠は含まれないからです。)
(2) 防犯カメラの映像
現在、駅構内や街中、店舗内には多くの防犯カメラ・監視カメラが設置されています。そのカメラに被疑者が盗撮している現場が映っていた場合、その映像はそのまま証拠となります。
電車についても防犯カメラを設置する車両も近年増えていますので、盗撮や痴漢の被害は証明されやすくなっています。
しかし、公衆トイレなどで盗撮をした場合は、そもそも防犯カメラが設置されていないことが多数なので、この証拠の獲得は困難でしょう。
(3) 被害者・目撃者の証言
盗撮をされていることに気づいた!という被害者の証言も証拠となります。
また、被害者が盗撮の現場で気づかなくても、周りにいた第三者が盗撮行為を確認していた場合、その第三者の目撃の証言も盗撮の証拠となります。
(4) 被疑者の供述
被疑者(加害者)の犯罪を犯したという供述(自白)も証拠となります。
ただし、自白は証拠の中でも重要視される一方、誤判を招くおそれも高いので、証拠が自白しかない場合には有罪とすることはできません(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項)。
2.盗撮は証拠がないと捕まらないの?
盗撮に限らず、刑事犯罪で被疑者を逮捕するには証拠が必要です。
被疑者を通常逮捕(後日逮捕)するには、警察官や検察官が令状(逮捕状)を裁判所に請求し、裁判所から出された逮捕令状を用いることが必要です。
通常逮捕は、罪を犯した疑いさえあればそれだけで可能となるものではありません。被疑者が罪を犯したと疑う相当な理由があり、かつ逮捕の必要性(逃亡の恐れ、罪証隠滅の恐れ)がある場合にはじめて可能となっています。
よって、証拠が全くなければ盗撮で捕まるケースはないと考えて良いでしょう。
一方、現行犯逮捕では、「現に罪をおこない、または現に罪をおこない終わった者」「罪をおこない終わって間がないと明らかに認められる者」を逮捕状無しで逮捕することができます。
現行犯の場合、被疑者が罪を犯したことが明白です。盗撮ならば目撃者の存在や盗撮の画像データなどの証拠が存在することが通常でしょうから、現行犯逮捕されることになります。
なお、盗撮事件で逮捕後に起訴まで持ち込むには、原則として盗撮に用いた端末、盗撮画像、目撃証言の3つが揃うことが必要でしょう。
この点、例えば東京都迷惑防止条例は、「撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け」る行為も処罰対象としており、まだ画像を撮影していなくても犯罪となります。このような差し向け行為にとどまる場合、盗撮画像は存在せず、証拠となるのは被害者や周囲の人の現認に基づく証言しかない場合が多いです。
(※迷惑防止条例の内容は都道府県により異なります。)
このような実際の画像がないケースでは証拠が不十分とされ、仮に逮捕をされても検察官が起訴に踏み切る事例は希だと思われます。
3.盗撮の証拠があり逮捕されるケース
では、盗撮の証拠が揃っている場合、必ず被疑者が逮捕されるかというとそんなことはありません。
確かに、盗撮の証拠が多い場合は逮捕される可能性があるのは事実ですが、証拠がある=逮捕とはなりません。
盗撮で逮捕される手続には現行犯逮捕と通常逮捕(後日逮捕)がありますので、以下ではそれぞれに分けて解説していきます。
(1) 現行犯逮捕の場合
現行犯逮捕とは、「現に罪をおこない、または現に罪をおこない終わった者」「罪をおこない終わって間がないと明らかに認められる者」を逮捕状無しで逮捕することを言います。後述する通常逮捕と異なり、一般人にも可能です。
一般人が現行犯逮捕を行うには、その者にとって犯罪事実が明白な場合であることが必要です。
現行犯逮捕の例として、盗撮している現場もしくは逃げて間もないところを被害者・第三者に取り押さえられた、盗撮現場に駆けつけた警察官に身柄を確保された場合などが挙げられます。
盗撮事件の逮捕はこの現行犯による逮捕が多いといわれています。
現行犯逮捕された場合、盗撮の証拠が揃っているケースが多いです。
もっとも、このような場合でも、被疑者が後に逃亡して行方をくらませるおそれがない(住所や監督者などが明確である)、犯行を認めている、証拠を全て警察が押収し証拠隠滅のおそれがないなどと判断されると、その場で釈放されることもあります。
釈放後は在宅事件となり、自宅で普段通りの生活をしながら必要に応じて警察署に出頭し取り調べを受けます。
なお、被害者や第三者の誤解から、犯人と疑われて誤認による現行犯逮捕がなされることもありえます。
この場合、警察からの追及により虚偽の自白をしてしまい、冤罪であるにも関わらず逮捕されることの不利益(身体拘束、周囲からの評価の低下など)を受ける可能性があります。
そのため、誤認により逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士との面会をさせるように警察に要求することが必要です。
心当たりの弁護士がいなければ、当番弁護士を要請することが可能です。
(2) 通常逮捕の場合
通常逮捕とは、裁判官が出す令状に基づいて警察官が行う逮捕です。
通常逮捕(後日逮捕)がなされるのは、盗撮行為が後日発覚した場合や、被害届が出された場合、その場では逮捕されず家に帰った後に逮捕の必要性が生じたと判断された場合です。
通常逮捕をされた場合でも、逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れがないと判断されれば釈放されるでしょう。
しかし、もし盗撮データを削除している場合、更なる証拠隠滅を阻止するために逮捕に続いて勾留されてしまう可能性があります。
4.盗撮犯で逮捕された場合の対応策
日本の刑事裁判の起訴後有罪率は99%を超えると言われています。
これは、日本の検察が、有罪が確実な事件を選んで起訴しているからです。慎重に捜査し、証拠をよく見て、法律的な問題点も検討し、過去の裁判例も調べて、有罪が間違いないという事件に限って起訴するという手堅さがうかがわれます。
よって、盗撮で逮捕・勾留(逮捕に続く長期の身体拘束)された場合、そのまま起訴をされて有罪となる可能性が高いのです。
有罪となると、たとえ懲役刑にならなくても(罰金刑でも)前科がつき、様々な不利益が生じます。
盗撮で逮捕されてしまったら、これらの事態を回避するために動く必要があります。
盗撮での勾留・起訴となるのを防ぐには、被害者との示談を成立させることが何より重要です。
示談により被害者の被害が回復し、処罰感情がなくなったと評価できれば、検察官が不起訴の判断をする可能性が高まります。
しかし、被疑者が逮捕されている場合、自ら示談交渉を行うことはできません。仮に逮捕されなかった場合でも、警察が被害者の連絡先を教えてくれることはないでしょう。
弁護士なら、逮捕直後から被疑者と接見が可能なため、事件の状況を早期に把握した上で、適正かつ迅速に被害者と示談を進めることが可能です。
警察から被害者の連絡先を教えてもらえる可能性があるのも弁護士だけなので、弁護士は被害者の心情に配慮した上で、適切な示談金の額で交渉を行ってくれるでしょう。
また、弁護士が意見書などを提出することで、示談成立前から釈放となることも少なからずあります。
これ以外にも、盗撮事件を弁護士に依頼するメリットは多くありますので、お困りの方は一度相談をご検討いただければと思います。
[参考記事]
弁護士に盗撮の示談交渉を依頼するメリットとは?逮捕後の流れ
5.盗撮をしてしまったら弁護士へご相談を
盗撮事件において、どのような証拠が重要となるかは事案によりけりです。
想定外の事情から盗撮の事実が発覚し、逮捕に至ってしまうこともあります。
「証拠が残っている可能性がある、盗撮で逮捕されるかも」と不安な方、あるいは逮捕されなかった場合でも「盗撮で起訴されるのを防ぎたい」という方は、早期に盗撮案件を多数扱っている泉総合法律事務所の弁護士へご相談ください。
泉総合法律事務所では、盗撮で逮捕されたものの弁護活動が功を奏し不起訴処分を獲得した実績が数多くあります。