少年院はどんなところ?|種類、入る理由・年齢・期間、生活を解説
少年が罪を犯すと「少年院送りになる」という認識の方は多いでしょう。
しかし、漫然と「未成年の刑務所」と認識している方がいらっしゃれば、それは実は誤解です。少年院は隔離された「学校」と言えるべき場所なのです。
ここでは、少年院をめぐる基本的な知識について解説します。
1.少年院とはどんなところ?
(1) 少年院で行われる事柄
少年院は、家庭裁判所の少年審判による保護処分として、少年院送致が決まった場合に、少年を収容し「矯正教育」を施す法務省所管の施設です。
矯正教育とは、少年の犯罪傾向を正し、健全な心身をつちかい、社会に適応して生活するに必要な知識と能力を習得させる教育です(少年院法第23条)。
少年院の矯正教育は、①生活指導、②職業指導、③教科指導、④体育指導、⑤特別活動指導に分けられ、少年の特性に応じて組み合わされます。
①生活指導は、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるもので(少年院法24条)、健全なものの見方・考え方・行動を育成する矯正教育の根幹に位置付けられます。情操の涵養、基本的な生活習慣、対人関係の指導なども行われます。
犯罪の被害者やその家族の心情を理解しようとする意識が低い少年、違法薬物に依存性がある少年などについては、これを改善する指導が行われます(少年院法第24条3項)。
②職業指導は、勤労意欲の喚起、職業生活に必要な知識・技能の習得を目指すもので(少年院法25条)、溶接、木工、土木建築、建設機械運転、農園芸、事務等の指導が行われています。
③教科指導は、義務教育を修了していない者など、社会生活の基礎となる学力を欠くことで更生・社会復帰に支障がある者に対し、中学校学習指導要領に準拠した教科教育を実施し(少年院法26条)、進路に応じて受験指導等も行っています。
また、高校以上の教育を必要とする者は、通信制高校への編入や文部科学省認定の社会通信教育の受講が可能です。
④体育指導は、健康管理と体力向上のための運動を指導します(少年院法28条)。サッカー、野球、水泳なども行われます。
⑤特別活動指導は、情操を豊かにし、自主、自律及び協同の精神を養う目的で、社会貢献活動、野外活動、運動競技、音楽、演劇などを実施するものです(少年院法29条)。
「教育」施設であって、刑務所のように刑罰を執行する施設ではないので、懲役囚のように強制労働に服するわけではありません。
(2) 少年院の種類
少年院は、少年の犯罪的傾向の進度や心身の状況等に応じて、第一種から第四種まであり(少年院法第4条1項)、どの施設に収容されるかは、審判時における裁判所の意見(処遇勧告)と、少年鑑別所の判断によって決まります。
種類 | 処分内容 | 心身状態 | 犯罪傾向 | 年齢 |
---|---|---|---|---|
第一種少年院 | 少年審判による保護処分 | 心身に著しい障害なし | 進んでいない | おおむね12歳以上23歳未満 |
第二種少年院 | 少年審判による保護処分 | 進んでいる | おおむね16歳以上23歳未満 | |
第三種少年院 | 少年審判による保護処分 | 心身に著しい障害あり | おおむね12歳以上26歳未満 | |
第四種少年院 | 刑事裁判による刑事処分 | 少年院において刑の執行を受ける者(受刑在院者) | 14歳以上16歳未満 |
「おおむね」とは合理的な裁量の範囲として、2歳程度の幅が見込まれています(※丸山雅夫「少年法講義(第3版)」(成文堂)292頁)。
第四種少年院に収容される「受刑在院者」だけは、少年審判による保護処分の対象者ではありません。少年事件であっても次の場合には、家庭裁判所は、少年と事件を検察官に送致しなくてはなりません(少年法20条)。これを「逆送」と呼びます。
①死刑・懲役・禁錮刑に当たる犯罪で、罪質・情状から刑事処分が相当なとき
②故意により被害者を死亡させた犯罪で、犯行時16歳以上のとき
これにより、少年事件でも検察官に起訴され、成人と同様の刑事裁判を受けることになります。
こうして、懲役・禁錮刑の実刑判決が確定した少年は、次の取扱いを受けます。
(ⅰ)16歳以上の場合、「少年刑務所」に収容される(少年法56条1項)
(ⅱ)14歳以上16歳未満の場合、16歳に達するまでは少年院に収容され矯正教育を受ける(少年法56条3項)。受刑者であっても義務教育年齢なので、刑務所よりも、少年院での矯正教育が相当だからです。これが「受刑在院者」です(少年院法第2条3号、第3条2号)。
(3) 少年院に入る期間・年齢
少年院に入る期間・年齢については、(1)収容期間が何年間か?(2)収容年齢の上限は何歳か?(3)収容年齢の下限は何歳か?という3点から考える必要があります。
収容期間が何年間か?
これは審判で少年院送致を決定する際に、家庭裁判所が少年院に対して行う「処遇に関する勧告」によって決まります(少年審判規則第38条2項)。
これには次の種類があります。
短期間処遇 | 非行が常習化しておらず、施設収容歴のない者 | 6か月以内(おおむね20週間)・鑑別所での再鑑定を経て期間延長される場合あり(少年院法36条1項、少年鑑別所法17条1項) | |
---|---|---|---|
特別短期間処遇 | 短期間処遇対象者よりも非行傾向が進んでおらず、問題性が単純かつ軽微で、短期の指導による社会復帰の可能性が高い者 | 6か月以内(おおむね11週間)・期間延長される場合があることは短期間処遇と同じ | |
長期処遇 | 短期処遇になじまない者 | ||
原則 | 1年以内(8~10ヶ月程度) | ||
比較的短期の処遇勧告 | おおむね1年程度 | ||
比較的長期の処遇勧告 | 1年超~2年以内 | ||
相当長期の処遇勧告 | 2年超 |
何歳まで収容できるのか?(収容年齢の上限)
20歳に達するまでが原則です(少年院法第137条1項本文)。
ただし、これには次の例外があります。
①審判での少年院送致決定時から1年経たないうちに20歳に達してしまう場合は、矯正教育機関が短くなりすぎる恐れがあるので、送致決定時から1年間に限って収容を継続できます(少年院法第137条1項但書)。
②心身の著しい故障、犯罪的傾向の未矯正により、収容継続が相当な場合は、家庭裁判所の決定で、最大23歳まで収容継続できます(少年院法第138条1項、2項)。
③著しい精神障害で、医療の専門的知識・技術を踏まえた矯正教育の継続が特に必要であるために、収容継続が相当な場合は、家庭裁判所の決定で、最大26歳まで収容を継続できます(少年院法第139条1項、2項)。
何歳から収容できるのか?(収容年齢の下限)
少年院には、保護処分としての少年院送致によって収容されます。犯罪少年は刑事成年年齢である14歳以上ですが、14歳未満でも、触法少年・ぐ犯少年として保護処分の対象となるので、少年院送致の年齢に下限があるのか問題です。
法律では、審判決定時に14歳未満の少年は、特に必要と認める場合に限って少年院送致とできると定めているだけで(少年法24条1項柱書)、下限を定める規定はありません。
しかし、実質的な事理弁識能力(物事の是非を判断する力)を備えるに至っていない年少者に少年院での矯正教育を施しても十分な教育的効果をあげられませんから、実務上の手続対象は10歳前後が下限とされています(※澤登俊雄「少年法入門・第6版」(有斐閣)91頁、田宮裕・廣瀬健二他編「注釈少年法・第4版」(有斐閣)77頁)。
前述の第一種及び第三種少年院の対象年齢の下限が「おおむね12歳以上」とされ、2歳程度の幅が見込まれているのは、この実務の取扱いと軌を一にしています。
2.少年院に入る原因・理由
少年院への収容は、前述した第四種少年院の「受刑在院者」を除けば、家庭裁判所の少年審判における保護処分としての少年院送致によって行われます(少年法第24条3項)。
少年審判の保護手続の対象となる少年を「非行のある少年」(少年法第1条)と呼び、次の3種類があります。
非行のある少年(少年審判の対象) | |
---|---|
犯罪少年 (3条1項1号) |
犯罪を犯した14歳以上、20歳未満の少年 |
触法少年 (3条1項2号) |
刑罰法令に触れる行為をしたが、その行為の時に14歳未満(刑事未成年)であったため、法律上、犯罪が成立しない少年 |
ぐ犯少年 (3条1項3号) |
次に掲げる事由があって、その性格・環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。 |
ぐ犯少年については、将来的な危険性だけを根拠として少年院に送致することは許されないという意見もあります。しかし、ぐ犯少年を例外扱いした明文はないので、実務では、ぐ犯少年も少年院送致の対象となります。
つまり、何ら犯罪を犯していない少年であっても、少年院に送られる場合はあるということです。
また、少年事件が家庭裁判所に送致されても、必ず少年院送致となるわけではありません。
司法統計(※2019(令和元)年司法統計「第8表:少年保護事件の終局決定別非行別既済人員・全家庭裁判所」)によると、2019年に保護処分の審判を受けた総人員7638人のうち、約21%にあたる1599人が少年院送致となっています。
前科とは、刑事裁判の有罪判決が確定した事実ですから、保護処分である少年院送致には前科はつきません。ただし、第四種少年院の「受刑在院者」は刑事裁判の有罪判決が確定しているので、前科がついています。
なお、少年院送致の有無を問わず、少年事件でも補導されたり、逮捕されたりすれば、捜査機関に「前歴」として記録が残ります。これは捜査対象となったということであり、少年院とは無関係です。
3.少年院での生活
少年院での生活のイメージは、全寮制の学校、合宿所を思い浮かべてください。
日々のスケジュールは施設によって異なります。下記は、1日のスケジュールの例です(※)。
6:30 起床・洗顔・清掃・日直など
7:40 朝食・自主学習など
8:50 朝礼・体操
9:00 生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導
12:00 昼食・自由時間
13:00 生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導
17:00 夕食・清掃など
18:00 集団討議、教養講座、個別面接、自主学習、日記記入など
20:00 自由時間(テレビ・読書など)
21:00 就寝
※参考資料:法務省矯正局「明日につなぐ 少年院のしおり」
矯正を目的とする団体生活ですから、規律違反行為には懲戒が加えられることもあります(少年院法第113条)。
懲戒には、①厳重な訓戒と②20日以内の謹慎の2種類があります(少年院法第114条)。
①は非を諭し、今後を戒めるお説教です。②は、違反者を集団処遇から離脱させ、独居室で反省させることで、謹慎中は、菓子類、書籍、新聞、面会、手紙、運動を制限されます(少年院法第115条)。
少年院では、少年の改善更生の進度に応じた矯正教育や処遇を行うために、少年を「1級・2級・3級」に区分けします。これを「処遇の段階」と呼びます(少年院法16条)。
少年は、まず最低の3級となり、その後の改善更生の状況等を成績評価されて(少年院法35条1項)、2級、1級と、より上位の級に上昇し、処遇内容が変わります。もちろん成績が悪ければ、級を降格されてしまいます。
「処遇の段階」は後述の仮退院の許否につながるので、収容者にとっては重大な関心事です。
4.少年院の仮退院
少年院から出られる「出院」には、主に「20歳退院」と「良好退院」があります。
「20歳退院」は、少年が原則20歳に達したときです(少年院法137条1項)。
「良好退院」は、犯罪傾向の矯正と、健全な心身、社会生活に適応する知識・能力の習得(少年院23条1項)という矯正教育の目的を達成したと認められた場合です(少年院法136条1項)。
もっとも、これ以外に「仮退院」の制度があります。
仮退院は、次の場合に、地方更生保護委員会の決定によって認められます。
①在院者が「処遇の段階」の最高段階まで向上し、仮退院を許すのが相当と認められるとき(少年院法135条)
②「処遇の段階」の最高段階ではないが、仮退院を許して保護観察に付することが改善更生のため特に必要と認められるとき(更生保護法第41条、「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」第30条)
なお、地方更生保護委員会が仮退院の審理を行う場合に、被害者から意見や心情を述べたいとの申出がなされたときは、その意見を聴取することが原則とされています(更生保護法42条、38条1項)。
実際には、仮退院が常態化しており、例年90%以上が仮退院で出院しています。
仮退院者は、必ず保護観察に付されます(更生保護法40条、42条、48条2号)。保護観察期間は、原則として収容期間が終了する満20歳に達するまでです。もちろん、満20歳を過ぎても収容が継続されている場合は、その期間が満了するまでです。
5.少年院と弁護士の活動
非行に走った少年を立ち直らせるために、家庭・学校・地域社会から切り離して施設に隔離して専門的な矯正教育を施した方が良いのか、それとも、あくまでも社会内にとどめて更生に期待するのか、その判断は容易ではなく、少年院送致を回避することが常にベターであるとは言えません。
しかし、非行事実が冤罪だった場合や施設収容の必要性がないにも関わらず少年院に送致される事態があってはなりません。弁護士は付添人として、家庭裁判所による非行事実の認定が正しく行われ、不必要な保護がなされないよう監視し、誤りを正す役割を果たします。
少年の生活環境に問題があるのであれば、保護者の反省を促し、担任教師・学校長・雇主に働きかけて、復学・復職への協力を取り付けるなどし、少年院送致が不要となるよう、社会復帰の環境を整える役割も弁護士は担います。
泉総合法律事務所では少年事件にも力を注いでいます。是非、御相談ください。