自動車運転死傷処罰法とは?交通事故被疑者・被害者必見の法律
通称、「自動車運転処罰法」(又は「自動車運転死傷行為処罰法」)は、交通事犯の厳罰化の要請に応じ、刑法の「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」を刑法から独立させた法律で、平成26年5月20日に施行されました。
さらに令和2年には、あおり運転の多発に対応した改正がされています(※正式名称は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です)。
自動車運転処罰法は、文字どおり、自動車の運転により人を死傷させてしまった場合に適応される法律です。
具体的にどのような内容が規定されており、犯してしまった場合にはどのような刑罰が科されるのでしょうか。
以下では、自動車運転処罰法とはどのような法律なのか、解説していきます。
1.自動車運転処罰法の内容と違反の罰則(法定刑)
運転行為の中でも、単純なミスとはいえない、悪質性や危険性の特に高いものについては、自動車運転処罰法の制定に伴い厳罰化が図られています。
(1) 危険運転致死傷罪
自動車運転処罰法で特に重い刑罰を科せられるのは、「危険運転致死傷罪」です。
危険運転致死傷罪は、特に重大な死傷事故を引き起こす危険が高い「危険運転行為」から人が死傷した場合に成立します。
被害者が死亡してしまった場合は、裁判員裁判の対象事件になります(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項2号、裁判所法26条2項2号)。
「危険運転行為」とは、以下の運転行為です。このような運転行為により人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられます(自動車運転処罰法2条)。
- アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での運転(2条1号)
- 制御困難な高速度での運転(2条2号)
- 進行制御技能なしでの運転(2条3号
- 妨害目的で、危険な速度で割り込み又は接近する運転(2条4号)
- 妨害目的で、走行中の車の前方で停車する運転(2条5号)
- 高速道路で5号の行為等により、走行中の自動車に停止または徐行させる運転(2条6号)
- 危険な速度で赤信号等を殊更に無視する運転(2条7号)
また、以下の運転により人を負傷させた者は12年以下の懲役に、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処せられます。
- アルコールや薬物の影響で正常な運転に支障が生じる状態での運転(3条1項)
- 病気の影響で正常な運転に支障が生じる状態での運転(3条2項)
(2) 準危険運転致死傷罪
2条1号のアルコールや薬物の影響による正常な運転が困難な状態での危険運転致死傷罪は故意犯です。したがって、運転者に「自分は正常運転が困難な状況である」との認識がなければ罪に問うことはできません。
しかし、酒に酔って「自分は大丈夫だ」と軽信して事故を起こした者の当罰性は疑いを入れません。
そこで、アルコール、薬物、病気によって、正常な運転に支障が生じるおそれがあり、そのおそれを知りながら運転し、実際に正常な運転ができず死傷事故を起こした場合は「準危険運転致死傷罪」として処罰されます。処罰を可能とする認識内容を「おそれ」のレベルまで緩和したわけです。
準危険運転致死傷罪では、人を負傷させた者は12年以下の懲役に、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処せられます。
- アルコールや薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転(3条1項)
- 病気の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転(3条2項)
(3) 過失運転致死傷罪
上記のような危険な運転行為ではなくとも、運転上のミスが死傷の結果を招いてしまうことは珍しくありません。
刑法の自動車運転過失致死傷罪を引き継いだ「過失運転致死傷罪」では、運転上必要な注意を怠って人を死傷させた者には、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科せられられます(ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑が免除される場合もあります)。
(4) 無免許運転による刑の加重
自動車運転処罰法では、無免許運転で人を死傷させた場合には、より強い非難に値する行為として、より重く処罰するとされています。
例えば、無免許で過失運転致死傷を招いた場合は10年以下の懲役となります(6条4項)。
2.自動車運転処罰法で逮捕・勾留される可能性
人身事故により事故現場で逮捕されても、単純な過失運転致死傷であれば、身元が明確である限り勾留請求されず、在宅事件として捜査を進めることが大部分です。
他方、飲酒が明白であるのに不合理な弁解をして飲酒の事実を否認したり、危険運転行為の嫌疑があったりすれば、逃亡や証拠隠滅の危険があると判断されて、勾留請求される可能性は高くなります。
[参考記事]
過失運転致死傷罪とは|根拠法・要件・刑罰・判例などを徹底解説
3.用語の説明
最後に、自動車運転処罰法に規定されている用語をいくつかご説明します。
(1) 危険運転致死傷罪
「正常な運転が困難な状態」
「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転をすることができない状態になっていることをいいます。
例えば、アルコールのため前方を見て運転することができない状態や、思ったとおりにハンドルやブレーキを操作することができない状態が、これに当たります。
(2) 準危険運転致傷罪
「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」
これはアルコール、薬物、病気の影響で、注意力・判断能力・操作能力が相当程度低下し、このまま運転すれば、前述の危険運転致死傷罪における「正常な運転が困難な状態」が現実に発生してしまうおそれがある身体状況を指します。
「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」
政令で、統合失調症、低血糖症、そう鬱病、てんかん、再発性の失神、睡眠障害が定められています(自動車運転処罰法律施行令第3条)
(3) 危険運転致傷罪
「殊更に無視」
信号を「殊更に無視」する場合というのですから、赤信号であるという認識を有しつつ、あえてこれに従わない場合が典型です。
もっとも、最初から一切信号に従うつもりなく運転した結果、赤信号か否かも知らないまま事故を起こした場合は、赤信号の認識がなくとも、「殊更に無視」に該当するというのが判例です(※最高裁平成20年10月16日決定)。
4.交通事故の弁護も泉総合法律事務所へ
危険運転致死傷罪の交通事件は、重大犯罪として処罰されます。
危険運転行為と認定されてしまえば、執行猶予がつかず重い実刑となる可能性が著しく高い事案であり、危険運転ではないことを主張して争わないと長期間の服役を余儀なくされてしまいます。
過失運転致死傷罪の場合、起訴・不起訴、執行猶予の有無に最も影響を与えるのが、被害者やその遺族との示談です。
保険会社の示談代行は民事賠償の問題を解決することだけが目的であって、刑事処分の軽減を目指すものではありませんから、刑事処分を有利にするためには、保険会社任せにするのではなく、弁護士による民事と刑事双方を睨んだ示談交渉を進めることがベストといえます。
危険運転致傷罪、過失運転致傷罪の弁護経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。