集団痴漢で逮捕された場合と単独痴漢で逮捕された場合に違いはある?
痴漢の犯人は1人とは限りません。インターネットの掲示板等で複数犯で周囲を取り囲み行う痴漢(集団痴漢)も発生しており、好奇心からこれに加担した場合は当然ながら逮捕される場合があります。
にわかには信じがたいかもしれませんが、インターネット上には性犯罪願望者が集うコミュニティサイトが存在し、そこでは匿名性が高い掲示板で「痴漢仲間募集」や「一緒に痴漢しませんか?」などの書き込みがなされて共犯者の募集が行われ、現実に集団痴漢や集団性的暴行事件を引き起こしているのです。
2017年(平成29年)11月には、インターネット上で痴漢情報を交換する掲示板を見て集まり、JR線埼京線の電車内で乗客の女性に痴漢したとして、30代と40代の男4人が強制わいせつ容疑(現不同意わいせつ容疑)で逮捕されました。
この事件の場合、容疑者らに面識はなく、犯行当日が初対面でしたが、男らは特定の電車を指す数字や隠語などの「合言葉」を使い、痴漢のしやすい混雑した車両や、女性の容姿などの情報に関するインターネット掲示板の書き込みを読み、電車に乗り込んで犯行に及んだというものでした。防犯カメラの映像等から犯人が特定され、逮捕されるに至りました。
このような集団痴漢の加害者となってしまった場合、自分一人で行う痴漢(単独痴漢)と比べて、刑罰や示談交渉の難易度はどうなるのでしょうか。集団痴漢は単独痴漢とどのような点で違いがあるのでしょうか。
1.痴漢の罪の種類
痴漢には、各都道府県が制定する迷惑防止条例違反の罪に当たる痴漢と、刑法の不同意わいせつ罪(刑法176条/旧強制わいせつ罪)に当たる痴漢の二種類があります。
前者の条例違反の罪に当たる痴漢の法定刑は、東京都の場合で「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例8条1項2号)、常習であれば「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同条例8条8項)となっています。
他方、不同意わいせつ罪に当たる痴漢の法定刑は、6月以上10年以下の懲役となっています。
これらの痴漢の種類は、痴漢行為の程度により分類されるため、集団痴漢か単独痴漢かは関係がありません。
一般的には、着衣の上から身体に触った場合は迷惑防止条例違反に、着衣や下着の中に手を差し入れて陰部や胸を触った場合は不同意わいせつに該当するといわれています。
不同意わいせつ罪の方が刑罰の程度は重いですが、集団痴漢では集団で痴漢行為に及んだというその行為自体が悪質性が強いため、迷惑防止条例違反であっても単独痴漢より勾留の可能性が高く、示談の成立も難しくなります。
[参考記事]
痴漢の定義と種類|痴漢を事例ごとに徹底解説
2.集団痴漢で逮捕された後の流れ
集団痴漢で逮捕された後の基本的な流れは、単独痴漢で逮捕された後の流れと同じです。
すなわち、集団痴漢で警察に逮捕された場合、48時間以内に身柄が検察官に送致され、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内でかつ逮捕から72時間以内に、釈放するか勾留請求をするか決めることになります。
勾留とは、逮捕に続く長期の身体拘束です。検察官から勾留の請求があると、裁判官は被疑者に勾留質問を行ってその当否を審査します。
罪を犯した疑いがあり、住居不定で罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあるなど、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときには被疑者の勾留が認められるでしょう。
痴漢事件において、検察官が勾留請求するか否かの判断において一番の問題になるのが「罪証隠滅のおそれ」の有無です。
単独痴漢について言えば、捜査機関は被疑者の否認それ自体を罪証隠滅行為と結び付けて考える傾向にあります。
つまり「自分は痴漢をしていない」と被疑者が主張すると、釈放したところで証拠を隠滅される可能性を危惧して、勾留請求をする傾向があるのです。
一方、集団痴漢の場合には、ある被疑者が自らの犯した被害女性に対する痴漢をおおむね認めているとしても、自己の刑責を有利に導くため、他の共犯者に不正な働きかけをするなどして罪証隠滅行為に及ぶ現実的可能性が認められると判断されて、「罪証隠滅のおそれ」が肯定され、勾留される可能性が高くなります。
勾留期間中に、検察官は捜査を続けた上で被疑者の処分を決めます。
集団痴漢で逮捕された被疑者の場合、その最終的な処分としては、条例違反の罪や不同意わいせつ罪の法定刑からして、「不起訴処分(起訴猶予)」「罰金(条例違反の罪の場合)」「執行猶予付」「保護観察付執行猶予」「実刑」が考えられます。
3.集団痴漢における弁護士の弁護活動
(1) 勾留請求を阻止する
勾留期間は原則10日間ですが、やむを得ない場合には更に10日以内の延長が認められることもあります。
こうなると、逮捕から合計23日間身体を拘束され、学校や仕事に多大な影響が出てしまいます。
そこで、まずはこの交流を阻止する(回避する)ことが重要です。
単独痴漢についてならば、弁護士は被疑者と被害者との間に全く面識がなく、お互いの行動範囲や生活圏も異なり、犯行とされる現場に偶然居合わせたにすぎないことを主張し、罪証隠滅を図るだけの客観的可能性は低い(実効性も現実的ではない)と主張して、検察官には勾留請求を思いとどまらせ、裁判官には勾留請求を却下するよう働きかけを行います。
しかし、集団痴漢ではそうはいきません。
集団痴漢では、犯罪事実として認定し量刑を左右する事実として、共謀に至る具体的事情、計画性の有無、共謀の成立過程とその具体的内容、集団の組織や構成、各自の地位や役割分担が重要となります。もちろん、各自の犯行内容や態様などが重要な点は単独犯と同じです。
これらの事実を裏付ける証拠としては、共犯者の供述が重要です。
弁護士は、共犯者の供述を含めた証拠の準備のほか、信頼できる身元引受人の「身元引受書」、被告人の被害者や共犯者と接触しない旨の誓約書など、逃亡や罪証隠滅を防止できる資料等を揃えて手続をとることにより、早期釈放を目指します。
これらの釈放活動は、逮捕に引き続く勾留あるいは勾留延長を阻止する以外に、万が一起訴された場合の保釈の際にも重要です。
(2) 被害者との示談交渉
痴漢の処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談です。
集団痴漢で逮捕された人に有利となる結果を導くには、いかに早期に示談を成立させることができるかにかかっています。
集団痴漢の場合であっても、示談が成立すれば(前科がない限り)不起訴処分(起訴猶予)になる可能性もあるでしょう。
示談交渉となりますと、被害者の心情に配慮しなければなりませんので、かなり高度な交渉ごとになります。特に集団痴漢の被害者は恐怖心や被害意識が強くありますので、被害者側との折衝や交渉は法律のプロである弁護士に委ねるのが望ましいといえます。
弁護士は、被害者の心情にも配慮しながら適切な金額で示談成立に尽力します。
場合によっては、被疑者に寛大な処分をお願いしますといった内容の嘆願書まで作成してもらえるかもしれません。
示談が早ければ早いほど、集団痴漢で逮捕された被疑者にとって有利な処分結果が出ることが期待できます。よって、被疑者が逮捕された直後の早い段階で、本人やご家族が弁護士に依頼することが望ましいことになります。
4.集団痴漢における示談金の相場
被害者と示談を成立させるには、示談金を支払うこそが必須とも言えます。
集団痴漢の示談金の相場と単独痴漢の示談金の相場には違いがあるのでしょうか?
同じ痴漢被害であっても、条例違反の罪にあたる痴漢もあれば不同意わいせつ罪にあたる痴漢もあり、また、単独痴漢・集団痴漢というように、それぞれの事案ごとに犯行に至る経緯・動機・目的、犯行の方法、犯罪の結果の重大性や犯行態様が異なります。
よって、被害の深刻さ、その程度や被害感情は一律ではありません。
痴漢事件の場合、被害者ごとに斟酌せざるを得ない不確定要素が多いため、示談金の相場を見いだすことは難しいとも言われています。
痴漢事件の示談金額の幅については、まず結論のみを示しますと、条例違反の罪に当たる痴漢の場合はおおむね30万円~50万円前後、強制わいせつ罪に当たる痴漢の場合はおおむね50万円〜100万円前後が多いです。
しかし、上記の例は、あくまでも単独痴漢として紹介されている場合ですので、集団痴漢となりますと更に示談金額の算定には困難さを伴います。
集団痴漢は、その行為が悪質であることは当然で、被害者の恐怖心、精神的ダメージ、トラウマも単独犯とは比べものになりません。被害者や家族が犯人らにむける処罰感情も非常に強いものがあるはずです。
したがって、通常、単独犯よりも慰謝料額は高額となります。
具体的には、単独犯の金額の1.5倍から2倍程度の金額が多いように思われます。
また、処罰感情の強さから、示談金は受け取ってもらえても、示談書に宥恕文言(被疑者を許し、処罰を望まない旨の文言)を記載することは拒否されるケースも珍しくありません。
宥恕文言が記載されていない場合には、示談の効果も限定的とならざるを得ません。
しかし、すくなくとも被害が金銭的に補償されて民事賠償の問題は解決し、被疑者側が示談に向けて努力をし、一定の誠意を示した点は明らかになりますから、示談の成立は有利な事情として考慮してもらえます。
いかに被害者側の怒りが強く、示談成立が困難と予想されるとも、示談交渉の努力を怠ってはいけないのです。
[参考記事]
被害者が示談に応じない、示談不成立の場合の対処法を解説
5.まとめ
痴漢で逮捕された場合、その行為の悪質性に照らし、集団痴漢の方が単独痴漢よりも勾留の可能性が高く示談の成立も難しくなります。
単独痴漢であれ集団痴漢であれ、もし痴漢で逮捕されてしまった場合には、刑事弁護に強い弁護士に早めに相談をするべきです。
ノウハウのある弁護士が弁護活動することで早期に示談が成立すれば不起訴になる可能性もありますし、仮に起訴となった場合でも、弁護活動に尽力してもらうことで罰金・執行猶予付判決などの有利な処分結果が期待できます。
痴漢事件を犯してしまった方は、お早めに刑事事件の弁護実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。