暴力事件 [公開日]2017年10月6日[更新日]2021年9月30日

DV防止法の保護命令、接近禁止命令についてわかりやすく解説

DV防止法」は、正式名称を「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」と言います。

この法律は、夫婦間などにおける暴力的行為を防止するための各種施策の実施を行政に要求するだけでなく、裁判所が加害者に対し、被害者への接近や被害者との同居を禁止するなどの保護命令を発することを認め、その違反者には刑事罰が与えられます。

あなたが保護命令を受けた場合、その意味内容や違反に対する制裁内容を十分に理解し、自制しないと、最悪の場合、懲役刑を受けて、刑務所での服役を余儀なくされる危険もあります。

この記事では、保護命令の制度を中心に、DV防止法に関する基本的な知識をわかりやすく解説します。

1.DV防止法・保護命令制度の目的

通称「DV」と呼ばれる「ドメスティック・バイオレンス」は、一般的には「夫婦間における一方配偶者からの暴力」を指します。

DVは重大な人権侵害であるだけでなく、多くのケースで男性が加害者であることから、DV被害の放置は男女平等の実現を阻害します。

そこでDV防止法は、通報制度・相談制度・保護制度・自立支援制度等の各種施策を行政に講じさせて、配偶者の暴力を防止し、被害者を保護しようとしています(DV防止法前文)。

裁判所による保護命令制度も、その一環として設けられたものです。

DV防止法の保護命令制度は、過去に配偶者等の加害者から暴力や脅迫の被害を受けた被害者が、将来、同じ加害者からの暴力による生命又は身体に対する重大な危害が発生するおそれが大きいと認められる場合に、裁判所が、その生命又は身体の安全を迅速に確保するため、被害者への接近の禁止等を加害者に命ずるものです。

なお、保護命令の発令は、裁判所から、被害者の住居・居所を管轄する警察に対し、速やかに通知され(15条3項)、警察に把握されます。

保護命令に違反する行為はそれ自体が犯罪であり、法定刑は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(29条)。

2.保護命令で保護される被害者

保護命令で保護される被害者と認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

(1) 加害者から暴力・脅迫を受けたことがあること

保護対象となる被害者は、加害者である配偶者から、①身体への暴力を受けた事実がある被害者、または②生命・身体に対して害を加えると脅迫された事実がある被害者です(10条1項柱書)。

①の身体への暴力とは、典型的には殴る蹴るといった、刑法上の暴行罪、傷害罪にあたる行為であり、②の生命・身体に対して害を加えるとの脅迫とは、「殺してやる」、「ぶん殴ってやる」などと告げる、刑法上の脅迫罪にあたる行為です。

(2) 同じ加害者から更に暴力を受ける危険があること

これらの被害者が、既に受けてしまった①または②の被害に引き続いて、今後、「身体への暴力」で生命身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、被害者からの申立を受けた裁判所による保護命令が発令されます(10条1項柱書)。

生命身体への重大な危害とは、放置しておくと、傷害罪、殺人罪に発展してしまう事態を想定しています。

(3) 保護対象の範囲

保護命令を受ける加害者は、入籍している配偶者だけに限られません。内縁関係にある相手(1条3項)、同棲中の交際相手(28条の2)も含まれます。

また、加害者から①または②の被害を受けた後に、(ⅰ)加害者と離婚した場合(婚姻が取り消された場合も含む)、(ⅱ)加害者との内縁関係を解消した場合、(ⅲ)加害者との同棲による交際を解消した場合も、すべて保護命令の対象です(1条1項及び3項、10条1項柱書、28条の2 )。

ただし、あくまでも婚姻中・内縁関係中・同棲交際中に、①または②の被害を受けた事実のある被害者が対象ですので、離婚後・内縁解消後・同棲交際解消後に、はじめて①または②の被害を受けたという被害者は保護の対象外であることに注意してください。

3.保護命令の内容

裁判所が発することができる保護命令の内容は次のとおりです。

(1) 基本:「接近禁止命令」と「退去命令」

被害者の生命身体の安全を守るには、何よりもまず、加害者を被害者に近づけないことが大切です。

そこで裁判所は、①加害者が被害者に近づくことを禁止する「被害者への接近禁止命令」(10条1項1号)、②被害者との同居を解消させる「退去命令」(10条1項2号)を発することができます。

しかし、これだけでは被害者の生命身体を守るには不十分な場合があります。

例えば、加害者が無言電話をかけ続けるなどの迷惑行為を執拗に行ったり、子どもを連れ去ろうとしたり、親戚に押しかけたりするなどの行動をとる場合です。

このような加害者の行動を放置すれば、被害者が抵抗を諦め、加害者との面会に応じてしまい、その際に、生命身体に害が及ぶ危険があります。それでは、せっかくの接近禁止命令が無駄となります。

そこで裁判所は、接近禁止命令の実効性を確保するために、③嫌がらせ行為などを禁止する「電話等禁止命令」(10条2項)、④「子への接近禁止命令」(10条3項)⑤「親族等への接近禁止命令」(10条4項)も発令することができます。

では、次に各保護命令の内容を説明しましょう。

(2) 被害者への接近禁止命令

被害者への接近禁止命令で加害者に対し禁止されるのは次の行為です(10条1項1号)。

①被害者の住居、その他の場所において被害者の身辺につきまとう行為
②被害者の住居、勤務先その他被害者が通常所在する場所の付近を徘徊する行為

禁止される期間は、当該命令の効力が生じた日から6か月間です。

なお、保護命令の効力が生じるのは(ⅰ)加害者に決定書が送達されたとき、または(ⅱ)裁判所に出頭している加害者に口頭で言い渡されたときです(15条2項)。

(3) 退去命令

退去命令は、加害者と被害者が同居しているケースで加害者に対し発せられます。命じられる内容は次のとおりです(10条1項2号)。

①被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること
②その住居の付近を徘徊してはならないこと

退去及び徘徊禁止の期間は、命令の効力が生じた日から2か月間です。

保護命令には民事上の執行力はないので、退去命令を受けても、強制執行を受けるわけではありません(15条5項)。しかし、命令に従わなければ、後述のとおり刑事罰を受けます。

(4) 電話等禁止命令

前述のとおり、電話等禁止命令は、加害者の迷惑行為、嫌がらせ行為を防ぎ、被害者への接近禁止命令を実効化するための制度です。

接近禁止命令が既に発令済みか、これから発令する際、被害者からの申立により、裁判所が生命・身体への危害を防止するため必要と認めるときに、電話などの一定の禁止対象行為をしてはならないことを加害者に命ずることができます(10条2項)。

禁止される期間は、「被害者への接近禁止命令の効力が生じた日」から6か月間です。

禁止対象となる行為の概要は次のとおりです。いずれも、放置すれば被害者が恐怖心を募らせて、諦めて加害者のもとに戻ってしまったり、加害者と面会してしまったりする危険のある迷惑行為、嫌がらせ行為です。

  • 面会要求(同項1号)
  • 例えば、「おまえは、○月○日、××レストランに居ただろう。知っているぞ」などと、監視を想起することを告げるなど(同項2号)
  • 著しく粗野乱暴な言動(同項3号)
  • 無言電話や連続した電話、FAX、メール(同項4号)
  • 午後10時から午前6時までの間の電話、FAX、メール(同項5号)
  • 汚物などを送りつけるなど(同項6号)
  • 例えば「おまえは男狂いだ。職場の人は知っているのか?」などと、名誉を害する事項を告げることなど(同項7号)
  • 性的羞恥心を害する文書や写真などを送ることなど(同項8号)

(5) 子への接近禁止命令

被害者が未成年の子どもと同居しているのに、加害者が子どもを連れ去ってしまうと、子どもを守るため、被害者が加害者との面会を余儀なくされるケースがあります。

そのような機会に被害者の身体・生命に危害が及んでしまうと、接近禁止命令の実効性が失われてしまいます。そこで、これを防止するのが、子への接近禁止命令です。

接近禁止命令が既に発令済みの場合か、これから発令される際に、幼稚園や学校の周囲をうろつく行為のように、加害者が幼い子を連れ戻すかのような言動をとっているなどの事情があるとき、被害者からの申立により、加害者との面会を余儀なくされることを防止するために必要と裁判所が認めるときに発令されます(10条3項)。

発令により、加害者に禁止される行為は、次の行為です。

①子の住居、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとうこと
②子の住居、就学する学校、その他子の通常所在する場所の付近を徘徊すること

禁止される期間は、「被害者への接近禁止命令の効力が生じた日」から6か月です。

なお、子への接近禁止命令は、子どもが15歳以上のときは、申立に、子の同意が必要です。これは既に判断能力ある年齢に達した子の意思を尊重する趣旨です(10条3項但書)。

(6) 親族等への接近禁止命令

加害者が、被害者の親族の住居や、被害者の職場の上司など社会生活上密接な関係を有する者の住居に押し掛け、例えば「○○を出せ!!匿っているのはわかっているぞ!」と叫ぶなど、著しく粗野・乱暴な言動を行うなどの事情があるケースは珍しくありません。

この迷惑行為をやめさせるなどのために、被害者が加害者との面会を余儀なくされてしまうと、身体・生命に危害が及び、被害者への接近禁止命令の実効性が失われてしまいます。そこで、これを防止するのが、親族等への接近禁止命令です。

接近禁止命令が発令される際または既に発令済みの場合に、被害者の申立てにより、加害者との面会を余儀なくされることを防止するために必要と裁判所が認めるときに発令されます(10条4項)。

加害者が禁止されるのは次の行為です。

①親族等の住居その他の場所において当該親族等の身辺につきまとう行為
②親族等の住居、勤務先その他親族の通常所在する場所の付近を徘徊する行為

禁止される期間は、「被害者への接近禁止命令の効力が生じた日」から6か月です。

なお、この申立てには、親族等の同意が必要です(10条5項)。これは、例えば、その親族が加害者との人間関係から自分への接近禁止を望まないケースもあるからです。

また、親族への接近禁止命令が発令されたため、加害者が勝手に、その親族を「被害者の味方」として認識してしまうことがあります。親族が知らないうちにそのような事態が生じると、親族が危険にさらされてしまうので、これを防ぐためにも親族等の同意を要求したのです。

また、親族等が15歳未満のときは、その親権者などの法定代理人の同意が必要であり、親族が成年後見を受けている成年被後見人であるときは、成年後見人の同意が必要です。ただし、親族が被害者の子どもで15歳未満のケースでは、子どもの同意や法定代理人の同意は不要です(10条5項)。

4.保護命令に対する不服申立て

過去に暴力や脅迫をした事実がないにもかかわらず、相手方の虚偽の申立てによって、保護命令を受けてしまうケースもあります。

そのような場合、相手方を説得しよう、話し合おうと考えるあまり相手に接触しようとしたり、連絡しようとしたりすると、保護命令に違反する犯罪となってしまう危険があります。

保護命令に不服がある場合は、命令の告知から1週間以内であれば、その取消しを求めて高等裁判所への即時抗告が可能です(16条1項、21条、民事訴訟法332条)。

5.保護命令の問題点

DV防止法は、配偶者からの「身体に対する暴力」だけでなく、「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」をも広く問題視し、これらの被害を防止し、被害者を保護する責務を国・地方公共団体に課しています(1条1項、2条)。

「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とは、例えば、モラハラ行為のような精神的な暴力などを指します。

ところが、前述のとおり、保護命令の対象となるのは、過去に①身体への暴力、②生命・身体への脅迫を受けた被害者で、今後「身体への暴力」を受ける危険が大きい場合に限定されており、精神的な暴力などの被害は保護の対象外です。

これは刑罰を伴う保護命令の発令要件は明確であることが要求されるためと説明されていますが、日弁連などから、被害の実情に照らし、保護の範囲を拡大するべきだと批判されています(※日本弁護士連合会「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の改正を求める意見書」2020(令和2)年10月20日付け)。

6.DV防止法の直近の改正

DV防止法の直近の改正は、2019(令和元)年に行われ、2020(令和2)年4月1日に施行されました。

従前から、自治体の設置する配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のために、被害者及びその同伴する家族の緊急時における安全の確保及び一時保護を行うことが定められていました(改正前3条3項3号)。

この被害者保護を行うにあたって、配偶者暴力相談支援センターと連携協力する機関として、都道府県警察、福祉事務所等が挙げられていましたが、「児童相談所」は明記されていませんでした。

しかし、DVは往々にして児童虐待を伴いますから、被害者が児童を同伴しているときは、その保護のために、児童相談所の支援も受けられることが適切です。そこで、改正法では「児童相談所」も、被害者の保護のための連携協力機関のひとつとして明記しました(改正9条)。

7.おわりに

DV事件で保護命令が発せられる案件は、傷害罪、殺人罪に進んでしまう危険性の大きい事案です。

保護命令の発令を受けてしまったならば、あなたが加害者として取り返しのつかない行為に及んでしまわないために、感情的にならず、冷静に対処しなくてはなりません。
一刻も早く、DV事件に精通した弁護士を依頼してください。

あなたが過去のDV行為を真摯に反省し、被害者との関係を修復することを心から望むならば、尚更、法律の専門家に助力を求めるべきです。経験豊富な泉総合法律事務所に是非ご相談ください。

【DV被害の通報先】
DV被害を受けたとき、DV被害を知ったときの通報先は、①自治体の設置する配偶者暴力相談支援センターまたは②警察署です。
配偶者暴力相談支援センターはDV防止法に基づき設置する機関で、都道府県は婦人相談所その他の施設(福祉事務所など)が同センターの機能を有します(3条1項)。市町村では同センターの設置は努力義務とされていますが、いわゆる「女性センター」「男女共同参画センター」などが、これに該当します(3条2項)。
例えば、東京都では、「東京ウィメンズプラザ」と「東京都女性相談センター」が配偶者暴力相談支援センターの機能を担っています。

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