性犯罪 [公開日]2018年3月15日[更新日]2022年4月1日

ストーカー規制法改正|GPS設置なども規制対象

ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」あるいは、単に「法」といいます)の改正法は、令和3年5月26日に公布され、令和3年8月26日の時点で全て施行されています。

ストーカー規制法は、どのように改正されたのでしょうか。また、どのような場合に禁止命令等が出され、それに違反したときはどうなるのでしょうか。

以下では、ストーカー規制法の目的、法で規制対象となる行為の内容と改正法で追加された内容、そしてストーカー規制法違反で逮捕された後の流れも解説します。

1.ストーカー規制法の目的等

ストーカー規制法は、いわゆるストーカー行為について必要な規制を行うとともに、その相手方(被害者)に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的としています(法1条)。

つまり、ストーカー規制法は、同一の者に対し、つきまとい等を繰り返すストーカー行為者(加害者)に警察署長等から警告を与えたり、悪質な場合に逮捕したりすることで、被害を受けている方を守る法律なのです。

2.規制対象行為の内容と改正法で追加された点

ストーカー規制法で規制の対象となるのは、「つきまとい等」「位置情報無承諾取得等」「ストーカー行為」の3つです。

元々ストーカー規制法では、特定の人に対する恋愛や好意の感情を充たす目的、あるいはそれが拒絶された場合に怨みを晴らす目的で、特定の人やその家族らに対して行う、下記(1)の8つのパターンに類型化された行為を「つきまとい等」と定義し、規制していました。

そして、令和3年改正により、つきまとい等のほかに、同様の目的を持って行う位置情報無承諾取得等について規制がされました。

以下では、つきまとい等、位置情報無承諾取得等、ストーカー行為の内容を概観した上、令和3年の改正で「つきまとい等」として追加された行為を明示することにします。
下記のアンダーラインの部分は、令和3年の改正で追加された行為です。

(1) つきまとい等

①つきまとい・待ち伏せ・押し掛け・うろつき

つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校、その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」といいます。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつく行為のことです(法2条1項1号)。

例えば、尾行してつきまとい、立ち寄り先で待ち伏せし、行く手をふさぎ、動静を見守り、勝手に訪問し、相手が通常所在する場所ではなくとも、現にいる店舗に押しかけたりするなどのことをいいます。

改正前は、見張り・押し掛け・うろつく行為が禁止されるのは、被害者の住居・勤務先・学校を例示とした「通常所在する場所」に限定されていたため、被害者の立ち寄り先、訪問先での行為は規制できませんでした。
そこで改正法では、被害者の現に所在する場所の付近での行為も対象となりました。

②監視していると告げる行為

その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置く行為のことです(法2条1項2号)。

例えば、「今日の××時ころ、〇〇さんと▲▲で食事をしていましたね。」と口頭や電話・電子メール等で告げたり、帰宅直後に「お帰りなさい。」と電話したり、自転車の前かごにメモを置いておくなどのことをいいます。

③面会や交際の要求

面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求する行為のことです(法2条1項3号)。

例えば、拒否しているにもかかわらず、口頭又は文書(手紙、張り紙等)や電子メールの送信等により、面会や交際、復縁を求めたり、贈り物を受け取るように要求することなどをいいます。

④乱暴な言動

著しく粗野又は乱暴な言動をする行為のことです(法2条1項4号)。

例えば、大声で「バカヤロー」と直接又は電話等で粗野な言葉を浴びせたり、「死ね」などの乱暴な言葉を吐いたり、メールしたり、家の前で大声を出したり、車のクラクションを鳴らすなどの乱暴な言動をしたりすることをいいます。

⑤無言電話、連続した電話・ファクシミリ・電子メール・SNS等

電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をする行為のことです(法2条1項5号、2項)。

例えば、無言電話をかけたり、拒絶しているにもかかわらず携帯電話や会社、自宅などに何度も電話をかけたり、何度もファクシミリや電子メール(パソコン・携帯電話のEメール、Yahoo!メール、Gmail、SNS等)を送信したり、LINE、Facebook、Twitter等のSNSを用いたメッセージ送信等を行うことです。

さらに、被害者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込みや、SNSの被害者のマイページにコメントを書き込んだりすることもいいます。

改正前は、文書の送付は禁止対象に含まれておらず、文書を郵送する行為や被害者の郵便受けに投函する行為は規制できませんでした。
改正法では、文書の送付も規制対象となりました

⑥汚物などの送付

汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又は知り得る状態に置く行為のことです(法2条1項6号)。

例えば、汚物や動物の死体など、不快感や嫌悪感を与える物を自宅や職場に送り付けたりすることをいいます。

⑦名誉を傷つける

その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置く行為のことです(法2条1項7号)。

例えば、中傷したり名誉を傷つけるような内容を告げたり、文書を届けたり、メールを送信したりすることをいいます。

⑧性的しゅう恥心の侵害

「その性的しゅう恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的しゅう恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的しゅう恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置く」行為のことです(法2条1項8号)。

例えば、電話や手紙で卑わいな言葉を告げて恥ずかしめようとしたり、わいせつな写真などを自宅に送り付けたり、インターネット掲示板に掲載したりすることをいいます。

(2) 位置情報無承諾取得等(新設)

位置情報無承諾取得についての規定は、令和3年より新設されました(法2条3項)。
これは、①対象者の私物等にGPS機器等など位置情報を取得するための機器を設置したり、②実際に位置情報を取得したりすることを規制するものです。

令和3年改正前は、GPS機器の設置行為や、これによる位置情報取得自体が「見張り行為」に含まれるか否かをめぐり、下級審の判断は分かれていました。
最高裁は、これらの行為は「見張り行為」に該当しないと判断したため、規制対象となっていませんでした。

【参考】
最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30年(あ)1529号)
最高裁令和2年7月30日判決(事件番号平成30(あ)1528号)

しかし、GPS機器等を用いた位置情報の取得等は、相手のプライバシーを侵害するだけでなく、更なるつきまとい等や、殺人罪等の重大な犯罪に発展する恐れがあります。
そこで、そのような行為を規制するために、この規定が新設されました。

(3) ストーカー行為

ストーカー行為とは、同一の者に対し、(1)の「つきまとい等」や、(2)の位置情報無承諾取得等を繰り返して行うことをいいます(法2条4項)。
同項のストーカー行為に、位置情報無承諾取得等が含まれるように改正されました。

「つきまとい等」行為や「位置情報無承諾取得等」行為は、それだけでは刑事罰の対象ではありませんが、反復した場合にはストーカー行為となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(第18条)。

ただし、「つきまとい等」行為のうち、「①〜④」及び「⑤のうち電子メールの送信等をする行為」は、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限って、反復するとストーカー行為となるものとされています(第2条4項)。

3.禁止命令等の制度の一部見直し

都道府県公安委員会は、つきまとい等や位置情報無承諾取得等を禁止した法3条に違反する行為があった場合で、更にこれを繰り返す恐れがある場合には、その行為の禁止等を命ずることなどができます(法5条1項。禁止命令等)。

この命令に対する違反には刑事罰が予定されており、例えば禁止命令に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金となります(法19条1項)。

また、禁止命令等には1年の有効期間があるのですが、これを延長することも可能です。

この禁止命令等や有効期間の延長については「命令書」「有効期間延長処分書」を名宛人に対し、原則として交付するものとされていました。交付することができない場合には口頭で行うことも可能でしたが、その場合でも、速やかに禁止等命令書等を交付することとされていました。

しかし、実際の事案では、禁止等命令書の受領拒否をする者が多数いました。

そこで、これらの書面は「送達」という方法で加害者に交付することに改めました(改正法第5条11項)。「送達」とは、民事訴訟などで用いられる特別な書類の交付方法と同じものです。

これにより、加害者の住所や所在が不明の場合でも、裁判所に書面を掲示することで交付したものと扱う「公示送達」が可能になります(改正法第5条12項)。

さらに、受取を拒んだ場合でも、加害者の住居等に届けるだけで交付したものと扱う「差置送達」なども可能となりました(ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則第12条2項2号)。

4.ストーカー規制法違反で逮捕された後の流れ

加害者の被害者に対する行為が、例えば脅迫罪、強要罪、住居侵入罪、暴行罪、強制わいせつ罪、名誉毀損罪などの刑法上の犯罪に該当する場合には、一般の刑事事件として処理されることになります。

ここでは、加害者がストーカー規制法違反で逮捕された場合について簡単に解説していきます。

(1) 逮捕・勾留・起訴

ストーカー事件の場合、加害者は、今後も被害者に対しつきまとい等をするおそれがあるわけですから、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあるものとして、警察による逮捕に続き勾留の手続がとられる可能性が高いものといえます。

そうしますと、最大72時間の逮捕に加え、10日間の勾留、更に10日以内の延長が認められることも考えられます。

さらに、起訴された場合には保釈が認められない限り、身体の拘束が続くことになります。

(2) 被害者との示談

一般の刑事事件であれば、被疑者・被告人の処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談といえるでしょう。

ストーカー事件の場合も、相手方被害者との示談が大変重要な役割を持ってきますが、被害者は加害者に恐怖心を抱いており、被疑者と会いたくないと考えます。そのため、当事者同士の示談の成立は極めて難しいことが一般的です。

そもそも、加害者が被害者との面談を希望すること、それ自体がストーカー行為の再現ですから、拒否されるのは当たり前です。

したがって、弁護士が被疑者の代理人として示談交渉に臨むことが必要です。

5.ストーカー規制法違反事件もご相談ください

ストーカー規制法違反を犯しますと、逮捕されるのみならず、懲役又は罰金に処せられて、前科がつくことになってしまいます。

今後の社会生活上の不利益を避けるためには、弁護士により示談を成立させ、不起訴処分を得ることが望ましいことは言うまでもありません。

ただ、ストーカー規制法違反においては、「起訴を免れた」「刑が軽く済んだ」という結果だけを過大に重視するべきではありません。

というのは、ストーカー行為を行ってしまう方には、「被害者は自分に好意を持っている」「自分がこのような行為に及ぶのは、そもそも被害者が悪いから」などの極端な「認知の歪み」が生じている場合が多く、刑事事件となっても、自己の違法行為を自制できず、その後、最終的に被害者を殺害する行為にまで行き着いてしまう悲劇的なケースが珍しくないからです。

仮に今回は示談で軽く済んだとしても、カウンセリングにより認知の歪みを矯正するなどの根本的な対策を講じなければ、被害者と加害者、双方にとって破滅的な結末を迎える危険があります。

むしろ刑事事件として立件されてしまったという機会は、加害者にとっては、自己の暴走にブレーキをかける、得難いチャンスと捉えるべきなのです。

このように、ストーカー規制法違反事件の弁護は、一般の刑事事件とは異なる配慮が不可欠であり、加害者の対応はどうあるべきかについては、特にストーカー規制法違反事件に精通している弁護士に委ねるのが望ましいです。

ストーカー規制法違反事件についても経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談・ご依頼ください。

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