性犯罪 [公開日]2020年12月9日

接近禁止命令|内容は?ストーカーへの効力はあるか?

昨今、ストーカーが社会的問題となっています。これに対応すべく、ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)が制定され、逐次改正されています。

ストーカー規制法には「禁止命令」という制度があるのですが、これはどのような効力を持つのでしょうか?

ここでは、ストーカー規制法が禁止する行為、禁止命令の内容と効力について解説します。

1.ストーカー規制法とは

禁止命令について理解するためには、ストーカー規制法が禁止している行為の内容について理解する必要があります。

ストーカー規制法が禁止しているのは、第1に「つきまとい等」行為、第2に「ストーカー行為」です。

そして、「つきまとい等」行為のうち一定の行為を反復することが「ストーカー行為」とされています。

そこで、まず「つきまとい等」行為とは何かを見てゆきましょう。

(1) 「つきまとい等」行為とは

ストーカー規制法では「何人もつきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない」としています(3条)。

この「つきまとい等」行為とは、①目的、②対象者、③行為内容という3つの要素によって定義されています。

まず、①次のいずれかの目的が必要です。

(ア)特定者への恋愛感情など好意の感情を充足する目的
(イ)上の(ア)の感情が満たされなかった事に対する怨恨の感情を充足する目的

次に、②行為の対象者が次の者であることが必要です。

前記の感情を抱いた相手(特定者)、その配偶者、直系親族(曾祖父母、祖父母、父母、子、孫、曾孫)、同居の親族、その他当該特定者と社会生活において密接な関係を有する者(これを「密接関係者」と呼びます)。

③行為内容は、同法2条1項の第1号から第8号に掲げられている各行為です。その内容は多岐にわたり、すべてを説明する紙幅はないので、代表的なものを抜粋しておきます(下記の行為に限らないことに注意して下さい)。

1号 つきまとうこと、待ち伏せすること、進路に立ちふさがること、住居、勤務先等の付近において見張りをしたり、みだりにうろついたりすること、住居や勤務先等に押しかけること
2号 対象者の行動を監視していると思わせるような事項を告げること等
3号 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること
4号 著しく粗野又は乱暴な言動をすること
5号 無言電話をかけること。相手が拒否しているのに、連続して(短時間や短期間に何度も)、電話をかけたり、FAXを送信したり、電子メールの送信等をしたりすること
6号 汚物などを送りつけること
7号 名誉を害する事項を告げること
8号 性的羞恥心を害する文書・画像・動画などを送信すること

これら「つきまとい等」行為それ自体には罰則はありません

ただし、後述のように、「つきまとい等」行為を反復することで「ストーカー行為」と認定された場合、禁止命令を受けたにもかかわらず、命令に違反して「つきまとい等」行為を行った場合には罰則が科されます。

(2) ストーカー行為とは

次は、「ストーカー行為」です。

ストーカー行為とは、①同一の者に対し、②「つきまとい等」行為を、③反復してすることをいいます(2条3項)。

ただし、「つきまとい等」行為のうち、先の1号から4号までの行為と5号の電子メールの送信等の行為は、行為態様に限定が付されており、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限ります。

ストーカー行為を行った者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(18条)。

[参考記事]

ストーカー規制法違反に当てはまる?どこからがストーカー行為か

2.禁止命令とは

禁止命令とは、「つきまとい等」行為があった場合に、これをした者が更に同じ行為を繰り返す恐れがある場合に、以降当該行為を禁止する命令です。

禁止命令を出すのは都道府県公安員会で、被害者の申出又は職権で禁止命令を出すことが可能です(第5条1項柱書)。

禁止命令では、反復して当該行為をしてはならないこと(第5条1項1号)だけでなく、その実効性を担保するものとして、反復を防止するために必要な事項を命ずることも可能です(同2号)。

これによって、例えばストーカーが被害者に画像・動画データを送付した事案では、そのデータや記録されたDVDなどの廃棄を命ずることができます。

禁止命令を出す際には、「つきまとい等」行為をした者を聴聞する手続きを経なければなりません(第5条2項)。

もっとも、緊急の必要がある時は、聴聞せずに禁止命令を出すことが可能です。ただし、発令から15日以内に意見聴取を実施しなくてはなりません(第5条3項)。

禁止命令の効力については発令から1年の期間が定められています(第5条8項)。
ただし、必要があれば、1年ごとに延長することが認められています(第5条9項)。

禁止命令に違反した場合の罰則には、違反の態様に応じて3種類があります。

①禁止後にストーカー行為をした場合

禁止命令が出された後に、その命令で禁止された「つきまとい等」行為を反復して行うことによって「ストーカー行為」をすると、2年以下又は200万円以下の罰金が科されます(第19条1項)。

②禁止前後の行為をあわせるとストーカー行為にあたる場合

禁止命令が出された後に、その命令に違反して「つきまとい等」行為を行ったが、それ自体をとりあげると、未だ「ストーカー行為」に至らない場合があります。

例えば、命令後の「つきまとい等」行為は1回しか行われていないときです。

しかし、この場合でも、禁止命令の原因となった「つきまとい等」行為と、命令後の「つきまとい等」行為を通じて評価すると、一連の反復したものとして「ストーカー行為」に該当する場合があります。

この場合は、やはり2年以下又は200万円以下の罰金が科されます(第19条2項)。

③ストーカー行為はないが、禁止命令には違反している場合

禁止命令が出された後に、命令に違反する行為がおこなわれても、それが「ストーカー行為」には該当しない場合もあります。

例えば、命令の原因となった行為と命令後の行為が、共に交際を要求する行為(第2条1項3号)で、いずれも被害者は不安を覚えたものの、一般的見地からは、社会通念上、不安を覚えさせる方法とまで言えない行為態様だった場合は、「ストーカー行為」の要件を充たしません。

この場合は、「ストーカー行為」ではないので、禁止命令に違反している点だけを処罰するべく、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が定められています(第20条)。

なお、「つきまとい等」行為により、被害者が不安を覚え、それが反復される恐れがある場合は、警察から、当該行為を反復してはならないという警告を発してもらうことができます(第4条)。

[参考記事]

警察からストーカー警告された場合の正しい対応

【禁止命令の実効性は?】
警視庁によると、令和元年のストーカー行為等(「つきまとい等」行為を含む)の相談件数は1262件と、3年連続で減少しています。
また、禁止命令は95件出されており、禁止命令に違反して検挙された回数は13件となっています。これを単純に比較すれば、禁止命令が発令されたうち、命令違反は約13.7%ですから、禁止命令には実効性があるように見えます。
ただし、ストーカー行為は、長期間継続する犯罪であり、発令時期と違反行為の立件時期にはズレがありますから、単年度の件数を比較しても意味はありません。しかも、ストーカーを起因とする脅迫罪等による検挙は120件存在することからわかるように、禁止命令に違反したケースが、必ずしもストーカー規制法違反で立件されるわけではありません。
禁止命令にどの程度の実効性があるかは、各事案ごとの追跡調査を待つべきだと言えましょう。
参考:警視庁「ストーカー事案の概況

3.ストーカー規制法違反で逮捕されてしまったら

ストーカー規制法に違反した場合には、逮捕される可能性があります。逮捕されると2~3日間、勾留までされると最大で23日間に及び身体拘束される可能性があります。起訴された場合には、罰金刑、懲役刑が科されてしまいます。

特に、前述のとおり、禁止命令等が出された場合に同法に違反すると、重い罰則が科されます。

もし、ストーカー規制法の禁止命令等が出された場合、弁護士にアドバイスを受けるべきです。禁止命令等の内容をしっかりと把握しておかなければ、ストーカー行為をするつもりでなくとも禁止命令違反で逮捕という事になりかねません。

また、被害者の誤解で警察に違反されたと相談されてしまうということもないわけではありませんから、何が違反となるのかを良く理解して、「李下に冠を正さず」という態度を実践することが必要です。

4.まとめ

泉総合法律事務所では、ストーカー規制法違反の被疑者の弁護活動も行っています。

[解決事例]

元交際相手の女性に復縁を迫り頻繁に連絡し逮捕→不起訴処分

禁止命令等を出された場合、これから大変なことになってしまうのか不安になると思います。

ストーカー規制法違反で逮捕された方は、すぐに泉総合法律事務所にご相談ください。法律のプロである弁護士なら、ストーカー規制法違反の弁護活動についても適切に執り行うことが可能です。

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