財産事件 [公開日]

置き引き・ひったくりの罪について。窃盗罪とその他の罪の成立要件

置き引き・ひったくりの罪について。窃盗罪とその他の罪の成立要件

【この記事を読んでわかる事】

  • 置き引き、ひったくりは通常「窃盗罪」が成立する
  • 事件の様態により、強盗罪や強盗致傷罪など、更に重い罪に問われることがある
  • 警察の捜査能力は高く、逃亡しても後日逮捕される可能性が高い

 

置き引き、ひったくりという用語はよく聞くと思いますが、それぞれ具体的に何という罪に問われ、どのような刑罰が科されるのでしょうか。

また、それぞれ、どのような場所で、どのような手口で行われるのでしょうか。防犯カメラから、後日逮捕されることはあるのでしょうか。

以下においては、置き引き及びひったくりの手口、置き引きの罪、ひったくりの罪、現行犯逮捕と後日の逮捕などについて、解説することとします。

なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

1.置き引き及びひったくりの手口

(1) 置き引きの手口

置き引きとは、置いてある他人の荷物などを持ち去ることをいいます。

例えば、パチンコ店、ゲームセンターやスーパーマーケットに置き忘れた財布、公衆トイレ内に忘れてあった財布、自転車の前かごに取り忘れられていたカバン、ATMから下ろして持ち帰るのを忘れていった現金などを持ち去れば、置き引きに当たります。

(2) ひったくりの手口

ひったくりとは、すれちがいざまなどに、他人の持っている物を奪って逃げることをいいます。

例えば、スリがぶつかりざまに人の物をスリ取ったり、過失と見せかけて通行人に突き当たり、驚いている相手方の懐中物を抜き取ったり、単に被害者の油断を見すまして、ハンドバッグやカバンなどの所持品をがっちりつかんで逃げたり、いきなり相手方の顔を平手で殴り、はっとした相手方が所持品を手放して顔を防ごうとする間に、その所持品を奪って逃げたり、夜間、人通りの少ない路上で、歩いていた女性の後ろから、走りざまに、あるいは、バイクや自転車、時には自動車で近づいて、女性の持っているバッグなどを奪って逃げれば、ひったくりに当たります。

2.置き引きの罪

(1) 窃盗罪・占有離脱物横領罪

置き引きは、窃盗罪(235条)が成立するのが原則です。

窃盗罪の場合、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。未遂も処罰されます(243条)。

また、置き引きは、占有離脱物横領罪(254条)の成立にとどまる場合もあります。

占有離脱物横領罪の場合、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料が科せられます。

(2) 事例

そして、実務では、置き引きについて、窃盗罪又は占有離脱物横領罪のいずれの罪が成立するのかが争われる事例も少なくありません。

では、下記の事例では、どの罪が成立するとされたのでしょう。

①バスに乗るために行列に加わっていた者が、カメラを身辺約30cmの箇所に置き、行列の移動につれて改札口手前約3.60mの所に来たとき(時間にして約5分、距離にして約20m)に、カメラを持ち去った犯人の場合(窃盗罪が成立)⇒最判昭32.11.8刑集11・12・3061

刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であって、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。

しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決する外はない。

②乗車券等を買おうとした者が、駅出札所のカウンター(指定券、特急券窓口)で特急券を買った際、そこに財布を置き、別のカウンター(乗車券窓口)で乗車券を買ったとき(時間にして僅かに1,2分、距離にして約15~16m)に、財布を持ち去った犯人の場合(窃盗罪が成立)⇒東京高判昭54.4.12判時938・133

被害者は4番カウンターから離れた直後に本件財布を置いたことに気づいており、しかも13番カウンターに至った時点において4番カウンター上の本件財布に対し、被害者の目が届き、その支配力を推し及ぼすについて相当な場所的区域内にあったものと認められるから、かかる時間的、場所的状況下にあった本件財布は、依然として被害者の実力的支配のうちにあったと認めるのが相当である。

③大規模なスーパーマーケットの6階ベンチの上に本件札入れを置き忘れたままその場を去った者が、エスカレーターを利用しても片道約2分20秒を要する地下1階にまで移動し、約10分余り経過したときに、本件札入れを持ち去った犯人の場合(占有離脱物横領罪が成立)⇒東京高判平3.4.1判時1400・128

被害者が本件札入れを置き忘れた場所を明確に記憶していたことや、右ベンチの近くに居合わせた女性が本件札入れの存在に気づいており、持ち主が取りに戻るのを予期してこれを注視していたことなどを考慮しても、社会通念上、被告人が本件札入れを不法に領得した時点において、客観的にみて、被害者の本件札入れに対する支配力が及んでいたとはたやすく断じ得ない。

④本件ポシェットをベンチの上に置き忘れたまま、友人を駅の改札口まで送るため、友人とその場を離れた者が、公園出口にある横断歩道橋を上り、上記ベンチから約27mの距離にあるその階段踊り場まで来たときに、本件ポシェットを持ち去った犯人の場合(窃盗罪が成立)⇒最決平16.8.25刑集58・6・515

被告人が本件ポシェットを領得したのは、被害者がこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では、その時点において、被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても、被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず、被告人の本件領得行為は窃盗罪に当たる。

3.ひったくりの罪

ひったくりは、暴行が専ら財物を直接奪取する手段として用いられ、反抗の抑圧に向けられたものでなければ、一般的には窃盗罪(235条)の成立にとどまりますが、暴行の時間・態様等により、人の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫が用いられれば強盗罪(236条1項)が成立し、暴行・脅迫が反抗を抑圧するに足りる程度に至らない場合には恐喝罪(249条1項)が成立することになります。

さらに、相手に傷害を負わせた場合には、傷害罪(204条)又は強盗致傷罪(240条)が成立します。

また、事後強盗罪(238条)や(事後)強盗致傷罪(240条)が成立する場合もあります。

行為成立する罪(時間・態様等による)
財物の直接奪取のみ窃盗罪(235条)
人の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫強盗罪(236条1項)
強盗罪に至らない程度の暴行・脅迫恐喝罪(249条1項)
相手に傷害を負わせた場合傷害罪(204条)又は
強盗致傷罪(240条)
逃亡中に拘束を免れるため
追いかけてきた人に傷害を負わせた場合
事後強盗罪(238条)又は
(事後)強盗致傷罪(240条)

強盗罪や事後強盗罪の場合、5年以上の有期懲役が科せられます。恐喝罪の場合、10年以下の懲役が科せられます。

傷害罪の場合、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。強盗致傷罪の場合、無期又は6年以上の懲役が科せられます。

(1) 事例

実務では、ひったくりについて、窃盗罪、恐喝罪又は強盗罪のいずれの罪が成立するのかが争われる事例も少なくありません。

では、下記の事例では、どの罪が成立するとされたのでしょう。

①自動車を運転して通行中の女性に近づき、自動車の窓からハンドバッグのさげ紐をつかんで引っ張ったが、同女がこれを奪われまいとして離さなかったために、さげ紐をつかんだまま自動車を進行させ、同女を引きずり転倒させたり、あるいは、自動車車体に接触させたり、道路脇の電柱に衝突させたりして傷害を負わせるとともに、バッグを奪取した犯人の場合(強盗致傷罪が成立)⇒最決昭45.12.22刑集24・13・1882

自動車のボディの重量体と自動車のスピードを犯行に利用し、特に夜間人通りが少ない場所で女性から無理にハンドバッグを奪い取ろうとする行為をなしたのであって、被害者の女性がハンドバッグを手離さなければ、自動車に引きずられたり、転倒したりするなどして、その生命、身体に重大な危険をもたらすおそれのある暴行であるから相手方女性の抵抗を抑圧するに足るものであった、とした原審の判断は正当である。

②夜間人通りの少ない場所で女性が腕を通して提げていたハンドバッグをひったくるに際し、バッグの持ち手部分を片手で引っ張ったところ、同女が悲鳴を上げつつもバッグの持ち手部分を握りしめて離さなかったため、バッグの持ち手を両手でつかんで強く引っ張り、その場に同女を転倒させるなどして傷害を負わせるとともに、バッグを奪取した犯人の場合(強盗致傷罪が成立)⇒東京高判昭52.5.26判タ359・307

被告人の行為により現に反抗を抑圧する効果を生じたこと、被害者が年齢若い女性であったこと、犯行時間が深夜であり悲鳴を上げても救助が望める状況ではなかったこと、被害者がハイヒールを履いており、転倒すれば受傷しやすい状態であったことなどから、強盗致傷罪が成立する。

③自転車を運転中の女性を、自転車に乗って追い越しざまに、自転車の前かごに入っていた手提げカバンを奪おうとしたが、同女が手提げカバンの持ち手を自転車のハンドルに掛けていたため、カバンをつかんだ弾みで同女を転倒させ、さらに、立ち上がった同女を手拳で2回くらい殴打する暴行を加えた犯人の場合(強盗致傷罪が成立)⇒福岡高判平14.9.11高刑速(平14)・170

犯行時間が夜間であり、犯行場所に人通りがなかったこと、被害者が女性であり、男性である被告人とは体格差も大きかったこと、暴行の態様は自転車ごと被害者を転倒させるものであったことや、顔面に殴打が加えられていること、その結果として被害者は痛みや更なる暴行が加えられることの恐れから、強い恐怖心を抱いていたことなどから、被害者がバッグを取られまいとはじめこそは抵抗していることがうかがえるものの、一連の暴行は、被害者の反抗を抑圧するに足りるものと認められる[確定。ただし、原審は強盗罪の成立を否定]。

④午前1時過ぎころ、路上を一人で通行中の女性のショルダーバッグをひったくろうと考え、同女の背後からいきなり首の前辺りに左腕を回して引きつけ、同女が右肩に掛けていたショルダーバッグの鎖部分を右手でつかんで引っ張ったが、同女がとっさにバッグを胸に抱え込み大声を上げたため、付近の住民らに気づかれるのをおそれ、両膝が地面についたままの状態の同女を7~8mくらい引きずり、同女の口を手で塞ぎ、壁に背中を押しつけるなどしたところ、同女の強い抵抗にあったことから金品を奪い取ることを断念したものの、一連の暴行により同女に約2週間の治療を要する傷害を与えた犯人の場合(恐喝未遂罪と傷害罪が成立)⇒札幌地判平4.10.30判タ817・215

暴行の程度はかなり強いものであったが、暴行が短時間で終了していることや、犯行時間は深夜ながら当時も人通りがあったこと、被害者が悲鳴を上げたり、もがいたりして、終始抵抗を続けていたことなどから、被害者の反抗を抑圧する程度のものであったとするには、なお合理的な疑問が残る[確定。ただし、起訴は強盗致傷罪]。

⑤たまたま見かけた通行人が手提げカバンを抱えて前方を歩いて行くのを見て、とっさに同人を手拳で殴打してカバンを奪取しようと考え、同人に追いついて左頬を横殴りに1回殴打し、カバンに手を伸ばして取ろうとしたが、逆に同人から首を締めつけられ、壁際に押し倒されるなどして失敗したものの、その間に、同人に通院加療約1週間を要する傷害を負わせた犯人の場合(傷害罪と窃盗未遂罪が成立)⇒大阪高判平9.8.28判時1926・153

被害者が年齢・体格とも被告人とほぼ同等の男性であったこと、被告人は被害者を認めた際、とっさに手拳で顔面を1回殴打すれば反抗されずに容易に手提げカバンを奪えると思い込み、それ以上の暴行を加えることは考えていなかったこともあって、1回殴打した後は積極的に暴行を加えていないこと、殴打の後直ちに被害者に組み伏せられたことなどを総合考慮すると、被告人の本件暴行はいまだ被害者の反抗を抑圧するに足る程度には至っていなかったと解するのが相当である[確定。ただし、原審は強盗致傷罪の成立を肯定]。

4.現行犯逮捕と後日の逮捕

置き引きやひったくりでは、現行犯逮捕されるだけでなく、防犯カメラの映像などから犯行が発覚し、後日、警察に逮捕され、調書を取られることはよくあります。

昔のことだから気づかれていないはず、逃げられたのだからもう大丈夫と思わずに、起訴にでもなれば、上記に見たように、厳しい処罰も考えられ、たとえ罰金で終わったとしても前科となるわけですから、逮捕されたり、裁判になったりする前に、弁護士に相談しましょう。

5.まとめ

警察の捜査能力は非常に高く、特に置き引きははっきりと防犯カメラに映っていることが多いため、忘れたころに家に警察がやってくるということがあります。

置き引きやひったくりをしてしまって、いつ逮捕されるか不安な日々を送っている方、実際に警察に逮捕されてしまったという方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください

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