財産事件 [公開日]2018年6月13日[更新日]2021年3月24日

会社のお金を横領したらどうなる?

「借金の返済資金が足りない」「急な出費が重なった」「少し見栄を張りたい」などという時、会社で経理などを担当している方は「少額ならバレないだろう」と思い、会社のお金を着服してしまうケースがあります。

会社のお金の使い込みは、「業務上横領罪」に相当します。

今回は、横領の罪の中でも「業務上横領罪」に焦点をあてて解説していきます。

1.「横領」とは

刑法には、横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)、遺失物等横領罪(刑法254条)の3つが規定されています。
ここでは、「横領」全体の定義と、業務上横領の要件についてご説明します。

(1) 横領罪

まずは、横領の基本形から確認しておきましょう。
なお、刑法252条の横領を「単純横領」と呼ぶこともあります。

刑法252条1項
「自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。」

横領罪の条文はとてもシンプルです。

しかし、これでは横領罪がどういう犯罪なのか分かりづらいので、具体的にどういう行為が「横領」になるのか、条文を分解して具体的に検討しましょう。

①自己の占有する他人の物

刑法上の解釈を加えて補うと、「自分が、他人から信頼されて預かっている物」という意味です。
また、ここにいう「物」には、現金や預金も含みます。

「預かっている」と説明しましたが、「占有」には、物理的に支配している場合だけでなく、預貯金の管理を任されている場合のような「法律的な支配」も含まれるので、実際には金融機関が管理している預貯金も対象となるのです。

②横領した

日常的に“横領”という言葉が使われていますが、法律上の解釈を加えて補うと、「あたかも自分の所有物のように処分する」という意味です。

 

つまり、横領とは「自分が、他人から信頼されて預かっている物を、あたかも自分の所有物のように処分する」という犯罪です。

たとえば、人から借りた本を勝手に古本屋に売った場合、横領罪が成立します。

通常、借りた本を勝手に売る権限などないので、自分の所有物のように振る舞って古本屋に売却してしまうのは横領と言えるのです。

(2) 業務上横領罪

続いて、今回のメインテーマである業務上横領罪についてです。

刑法253条
「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。」

要件としては、先ほどの刑法252条の条文に「業務上」という文言が加わっただけです。
ただし、単純横領が「懲役5年以下」であるのに対し、業務上横領は「懲役10年以下」ですので、業務上横領の方がかなり重く罰せられます。

重く罰せられる根拠については議論がありますが、現在では、他人の物を「業務上」で扱う以上、その信頼を裏切る行為はより強く非難されるべきで責任が重いと理解する考えが有力です。

「業務上」とは、「社会生活上の地位に基づき、反復継続する意思によって行われるもの」という意味で、会社の業務などはまさにこの条文の「業務上」にあたります。
したがって、会社の現預金などを使い込めば、業務上横領にあたります。

なお、「遺失物等横領罪」についてはここでは詳細の説明を省きますが、他人の占有を離れた財物を自分のものにしてしまうことで、落とし物などをいわゆる「ネコババ」する行為がその典型例です。

2.業務上横領が発覚する理由とは?

ネットでは、業務上横領が発覚しやすい犯罪だという意見がありますが、実際に社会で実行されている横領行為の数と認知件数を比較することなどできませんから、発覚しやすいなどとは言えません。

むしろ加害者が被害品を管理しているため、外部からは犯行の事実も被害を受けている事実も見えないので、窃盗、強盗、詐欺、恐喝など、他の財産犯に比べて発覚しにくい犯罪というべきでしょう。これは例えば、預かった現金を横領しても、後で補てんしてしまえば、犯罪の痕跡が全く残らないことからも容易に理解できるでしょう。

では、横領行為が発覚してしまった場合、それはどんな原因に基づくのでしょうか?

(1) 回数や金額が次第に増える

テレビや新聞で報道される横領事件では、被害額が何億円という事例も珍しくありません。

2001年に発覚した青森県住宅供給公社の横領事件では、公社の経理担当者が約14億円を横領し、そのうち約11億円を外国人女性に貢いだといわれています。

この事案でも、犯人は従前から横領していたところ、外国人女性と結婚したころから、横領額が増えたと言われているように、横領事件の典型的なケースは、はじめは恐る恐る少額を横領し、ばれなかったからもう1回、さらにもう1回と繰り返し、そのうちに1回あたりの金額も上がっていくといったものです。

こうして横領行為の回数や金額が次第にエスカレートし、多額の穴が空くようになると、自転車操業のように、補てんが間に合わなくなれば、必然的に被害が発覚します。

(2) 担当替え(人事異動)が起こる

長年にわたって1人の従業員が担当していた業務で担当替えが発生し、後任が引き継いだ途端に不正が見つかる、というのはよくあるパターンです。

大きな会社では数年おきにローテーション(人事異動)が行われますが、異動には「幅広く業務を経験させる」という意義だけでなく、不正防止の目的もあると言われています。

一方、小規模な会社では、人員の都合上こうしたローテーションが難しく、特に経理のような専門業務になると担当替えもままなりません。
そのため「自分が管理している限り、横領を隠し通せる」というケースも生じます。

しかし、あくまで「自分が担当している限り」であって、絶対に人事異動がない保証はありません。
また、病気などで長期間の休みが必要になれば、誰かがその仕事を代わりに引き継ぐことになるかもしれません。

そして、会社勤めである以上、いずれは定年を迎える日がやってきます。最終的に補てんできない場合は、最後まで横領を隠し通すなど、限りなく不可能なのです。

(3) 外部から不正を指摘される

また、顧問税理士・会計士や取引先、税務署など、外部から不正を指摘されることもあります。

例えば、税務署は横領を調べる機関ではありませんが、横領した金銭によって生活が派手になり、高級クラブで遊んだり、高級車やマンションを購入するようになれば、税務署に申告している収入額と合わなくなるので、当然、「何か収入源があるのだろう」と税務署に目をつけられて税務調査が入ります。これにより、税務署が横領を見つけることがあります。

3.横領がばれた場合|解雇?刑事罰?

横領がばれた場合のペナルティは、2つの視点で考える必要があります。

「民事上の責任」と「刑事上の責任」です。

(1) 民事上の責任(損害賠償・解雇など)

こちらは「会社に対する責任」と言い換えてもよいでしょう。

会社のお金を横領すれば、会社にはその分だけ損害が発生します。そのため、会社が被疑者に対して損害賠償請求をする可能性があります。
この場合、被疑者は被害金額に相当する金銭に法定利率による利息(遅延損害金)を加えた金額の支払いをしなければなりません(民法704条)。

また、会社としては「損害賠償してもらえればいい」というわけにもいきません。通常、会社の就業規則には「会社に損害を与えた場合」や「犯罪を犯した場合」を懲戒事由とする規程がありますから、その規程に従って懲戒処分を受けることになります。

懲戒処分には、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などさまざまな制裁がありますが、横領は犯罪行為であり、重大な不正である以上、懲戒解雇(クビ)も覚悟しなければなりません。退職金規程の不支給事由にも該当し、退職金もパーとなる可能性が高いです。

(2) 刑事上の責任(刑事罰)

業務上横領罪は、10年以下の懲役が科される犯罪です。

非親告罪ですが、横領の犯罪事実・被害事実は、被害者である会社の積極的な捜査協力がなければ、調査し、十分な証拠を得ることが困難ですから、通常は会社の正式な告訴がなければ起訴できません。

しかし、会社側は組織内で犯罪が行われたことが外部に漏れると企業の体面・信用にかかわるとして、あるいは、上司や担当役員に責任が及ぶことを回避するため、内々に処理してしまい、被害届は出したものの、それを取り下げたり、警察からの告訴状の提出要請には応じない場合も多いのです。

さすがに、企業のコンプライアンスが強調されるに至った今日では、横領事件を内部処理してしまったことが株主に発覚すれば、代表訴訟を起こされるリスクがありますから、上場企業ではよほど少額の横領行為でない限り告訴される公算が高くなりますが、中小企業ではあえて刑事事件化しないことも珍しくはありません。

刑事事件化しても、ほとんどの場合、損害を回収できないので、捜査や裁判に協力する時間と労力が無駄という事情もあります。

①逮捕

これはどの犯罪でも同じですが、「逮捕」されるかどうかはケースバイケースです。
逮捕するには裁判官の許可(逮捕状)が必要となるため、初犯の軽微な犯罪、逃亡や証拠隠滅のおそれもないような事件の被疑者は逮捕せず、微罪処分や在宅事件となる可能性もあります。

もっとも、横領事件は、被疑者の管理下にあった金銭を着服するものですから、横領の事実を示す証拠もまた被疑者が握っており、さらに金銭の流用経過、帳簿や伝票の虚偽記入など、被疑者本人でなくては説明ができない事実と証拠が多いことが特徴です。

加えて、横領した金銭と知りつつ、これを被疑者と一緒に消費した共犯者がいることも多いので、横領罪は、証拠隠滅や口裏合わせの危険性が高いと判断され、身柄を拘束される可能性が高い犯罪と言えます。

②刑罰

刑法253条をご覧いただくと分かるとおり、業務上横領罪には罰金刑がありません。

たとえば、窃盗罪(刑法235条)の刑罰は、「10年以下の懲役」か「50万円以下の罰金」ですので、有罪判決であっても罰金刑で済む可能性があります。
これに対し、業務上横領罪には罰金刑がないため、有罪判決=懲役刑ということになります。

もちろん、起訴されて有罪判決になった場合でも「執行猶予」がつく可能性があるので、有罪判決が出ても直ちに刑務所行きというわけではありません。
しかし、罰金刑が用意されている窃盗罪や遺失物横領罪に比べ、業務上横領罪の刑罰は重いといえるでしょう。
執行猶予について

なお、業務上横領の罪を問われるのは横領行為を行った本人だけであり、何も関与していない家族が罪に問われることは通常ありません。

ただし、横領行為を唆したり、虚偽の伝票作成を手伝うなど、横領行為を幇助したり、共謀して横領行為をおこなった場合は、家族も共犯者として、横領罪に問われます。

また、横領した金銭と知りつつ、これを譲り受けた者は、盗品関与罪(刑法256条)となりますが、横領犯の配偶者・直系血族、同居の親族、これらの者の配偶者の場合は、刑は免除されます(257条1項)。

[参考記事]

家族(夫)が会社の金を業務上横領した|妻に責任は生じる?

4.既に会社のお金を使い込んでいる人の正しい対応

横領はいずれ発覚するリスクある行為です。横領をしてしまった場合、やってしまった罪の重さをしっかり認識して、これを会社に報告し、反省の意思を示すことが重要です。

もちろん、どんなに誠実に謝っても、会社を解雇されたり、損害賠償を求められたりする可能性はあります。

しかし、横領を隠そうとしていたか、横領を認めて自分から報告したかによって、その後の評価が大きく変わる可能性があります。
少なくとも、「ばれるまで横領を隠し通す」という選択肢は避けるべきでしょう。

とはいえ、今すぐ会社に報告しようにも、どうやって報告すればいいか、また会社と示談交渉するにしても賠償すべき金額や方法も分からないはずです。

これらは、弁護士に相談してから対応を進めることをお勧めします。

とは言え、必ずしも警察に自首することがベストではありません。

前述のとおり、業務上横領罪は、被害にあった会社側も刑事事件化を望まないケースが多いので、弁護士が会社側と交渉し、示談を成立させて、内々に処理することができる場合は珍しくないのです。

横領額の全額を賠償できなくとも、真摯な反省の気持ちが伝われば、できる限りの金策で集めた金額で示談に応じてもらえる例もあります。

「もうだめだ」と絶望する前に、勇気をもって弁護士に相談してみてください。最良の選択肢をアドバイスしてもらえる筈です。

[参考記事]

業務上横領罪で刑事告訴・被害届!横領・着服事件の示談の重要性

5.まとめ

人間である以上、欲望に負けて衝動的にお金を横領してしまうこともあるかもしれません。

しかし、いずれ横領はばれます。一時の衝動で横領してしまい、思い悩んでいる方は、お早めに刑事事件の解決に長けた泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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