財産事件 [公開日]2018年6月21日[更新日]2021年2月19日

家族(夫)が会社の金を業務上横領した|妻に責任は生じる?

夫や息子さんが会社のお金を横領したことが発覚して逮捕・起訴されてしまった場合、妻や家族は何をすれば良いのでしょうか?弁償する責任を負うのでしょうか?

また、弁償する義務はない場合でも、支払いたい気持ちがあれば任意に支払ってもよいのでしょうか。

今回は横領事件によって生じる法的責任と家族との関係について解説します。

1.横領によって生じる法的責任

一口に法的責任といっても、刑事責任と民事責任の面から、それぞれを分けて考える必要があります。

(1) 刑事責任

まずは、刑事責任から確認しておきます。
刑事責任とは、罪を犯したことを理由に国家から刑罰を科せられる、という責任です。

他人の財産権を侵害する犯罪には、窃盗、強盗、詐欺など様々な種類がありますが、そのうち横領罪は、平たく言えば、信頼関係に基づいて管理を任された他人の財物を勝手に使ってしまう犯罪です。

刑法は、横領罪について「自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する」(252条1項)と定めています。

「占有する」とは、①会社から貸与されたノートパソコンを、従業員が社外で使用する場合のような、物理的・事実的な支配だけでなく、②会社から管理を任された金銭を従業員が預貯金として管理している場合のような法律的な支配も含みます。

「横領した者」の「横領」行為とは、自己の占有する他人の物について、「不法領得の意思」を実現する一切の行為を指します。

「不法領得の意思」とは、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」と理解されています。

「処分」とは文字どおり財物を売却処分する場合だけでなく、金銭を消費してしまう場合や着服してしまう場合、持ち逃げする場合などを広く含みます。

したがって、例えば、次のような行為は横領罪となります。

  • 会社から預かっている現金を勝手に使ってしまう
  • 会社から管理を任された銀行預金口座から、勝手に自分や友人の口座に送金する
  • 営業先で集金した売掛金を持ったまま逃げてしまう

そして、会社における業務として財物を占有していた場合は、特に「業務上横領」として刑が加重され「10年以下の懲役」という重い刑罰となります。

刑法253条 業務上横領
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

横領犯人の家族は刑事責任を問われるのか?

家族が業務上横領罪を犯した場合、罪を問われるのは横領行為を行った本人だけであり、家族が罪に問われることはありません。

何故なら、刑事法の分野では、行為者の行った個人的行為についてのみ責任を問えるという「個人責任の原則」が認められ、団体責任や連座責任は原則として否定されているからです(※山口厚「刑法総論(第2版)」(有斐閣)6頁、大塚仁「刑法概説(総論)第4版」436頁など)。

ただし、家族が横領行為をそそのかしたり、家族と共謀して横領行為を行ったりしたなどの共犯関係が認められる場合は、当然に家族も業務上横領罪に問われます。

また、例えば、夫が会社の金銭を横領して妻に渡し、その金銭を妻が使ってしまった場合はどうでしょうか?

この場合、妻が、その金銭が横領行為によって得られたものであると知って譲り受けたときには、盗品等譲受罪(刑法256条1項)という犯罪が成立します。法定刑は3年以下の懲役刑です。

もっとも、横領犯人と譲り受けた者との間に、配偶者・直系血族・同居の親族などの関係がある場合には刑を「免除」するものとされているので(刑法257条1項)、妻が処罰されることはありません。

横領犯人と一定の親族関係がある場合は、被害品と知りつつ受けとってしまうことも無理からぬ面があり、強く非難できないからです。

(2) 民事責任

これに対し、民事責任は被害者に対して負う財産上の責任です。
要するに、横領犯人が、横領の被害者である会社に対して、横領によって生じた損害を賠償する責任のことです。

横領行為は、会社に対して違法に損害を与える「不法行為」ですから、横領犯人は損害を賠償する義務があります(民法709条)。

また、会社の金銭を消費したケースでは、会社に損失が生じる一方で、横領犯人は法律上の原因なくして利得しているので、「不当利得」として、利得した金銭に利息を加えて会社に返還する義務があります(民法704条)。

会社としては、不法行為と不当利得のどちらか、或いは、その両方を根拠として、横領犯人に賠償を求めることが可能です。

刑事責任と民事責任は別個のものですが、まったく無関係というわけでもありません。

たとえば、会社に対して被害弁償したという事実や、さらに進んで示談が成立したという事実は、刑事事件において有利な事情として考慮され、不起訴処分となったり、刑事裁判で量刑が軽くなったりする材料となります。

横領犯人の家族は民事責任を問われるのか?

刑事責任の解説の中で、「本人と家族が共犯となる場合や、家族が盗品譲受罪となるなどの場合でない限り、家族は刑事責任を負わない」と説明しました。
これは民事責任でも同じです。

まず家族の不法行為責任ですが、本人と家族が共犯となる場合や、家族が盗品譲受罪となる場合は、家族自身も犯罪者ですから、横領犯人と共に共同不法行為責任を負い、横領犯人と連帯して損害賠償責任を負担します(民法719条)。

次に家族の不当利得返還責任ですが、横領による金銭と知っていたか、または、知らない場合でも重大な過失があるときは、家族も不当利得に基づく責任を負います。

もっとも、本人と家族が共犯である場合はともかくとして、横領犯人の夫から妻が金銭を受けとって、横領した金と知りつつ生活費に使ったという場合、会社の損失と家族の利得との間には横領犯人の行為が介在しているので、不当利得の要件のひとつである「損失と利得の因果関係」が欠けるのではないかという疑問があります。

しかし、判例(※最高裁昭和49年9月26日判決/最高裁判所民事判例集28巻6号1243頁)によれば、不当利得制度は損失者と利得者の「実質的な公平」を図る制度なので、損失と利得との間に横領犯人の行為が介在していても、一方の損失によって他方の利得が生じたと、社会通念上認めることができれば足ります。

そして、不当利得のもうひとつの要件である「法律上の原因を欠く」利得であることも、実質的公平の観点から判断するべきであり、妻が横領による金銭と知っていたか、または、知らない場合でも重大な過失があるときは要件を満たすと考えられます。

2.家族に民事の法的責任が生じる場合

会社に就職する身内から「身元保証人になって欲しい」と頼まれたことはないでしょうか。

日本では古くから「身元保証」という制度があり、会社に入社する際に、身元保証書の提出を求める会社も少なくありません。

この身元保証書は、民法の保証契約(民法466条)を成立させる書面ですから、本人が会社に損害を与えた場合には、身元保証人はその損害を賠償する義務を負います。

ただし、身元保証契約は、本人と身元保証人の人間関係から安易な引き受けがなされることが多いので、いったん身元保証人となった以上、会社が受けた損害の全額を負担しなくてはならないとするならば、予期しない多大な賠償義務を負う過酷な結果を招いてしまいます。

そこで、身元保証人が責任を負う期間と範囲は、「身元保証ニ関スル法律」という特別法で規制されています。

身元保証契約の期間は、期間を定めない場合は原則3年、期間を定める場合は最長5年に制限され(同法1条、2条)、更新する場合も5年を超えることは許されません。

また、本人が業務に不適任・不誠実な事実があった場合や担当業務を変更したなどの場合には、会社は、その旨を身元保証人に通知しなくてはならず、通知を受けた身元保証人は身元保証契約を解約することができます(同法3条、4条)。

さらに、損害の全額を負担するのではなく、会社側の過失、身元保証人となるに至った経緯、身元保証契約をした当時からの本人の業務内容の変化など、諸事情を考慮したうえで、裁判所が適切な賠償額を定めることになります(同法5条)。

なお、民法改正により、2020(令和2)年4月1日以降に締結する身元保証契約には、賠償額の上限(極度額)を定めることが必要となり、この定めがない場合は、身元保証契約は無効となり、身元保証人は責任を負わないこととされました(改正民法465条の2)。

2020(令和2)年3月31日以前に成立した身元保証契約であっても、期間の経過により同年4月1日以降に更新する場合は同様に極度額の定めが必要です。

このように身元保証契約には厳格な規制がありますので、もし会社から身元保証人として損害賠償を求められた場合でも、本当に賠償義務を負うかどうか仮に負うとしても、いかなる範囲で責任を負うかを、弁護士に相談してください。

3.敢えて家族が賠償することは可能か

上述した場合を除き、家族が「法的」な刑事・民事責任を負うことはありません。

では、法的な民事責任がないことを承知のうえで、敢えて家族が会社に被害弁償することはできるのでしょうか。

結論からいえば、法律上の賠償義務はないと分かったうえで、会社に対して賠償することは可能です。民法は債務者以外の第三者による弁済を有効と認めているからです(民法473条)。

また、実際にも、家族からの被害弁償の申し出を受けた際に、会社が受け取りを拒む可能性は低いでしょうし、万一、受領を拒否した場合には法務局に供託することができます(民法494条1項1号)。

家族の民事責任の有無を問わず、家族による被害弁償には、次のような意義があります。

一つは、家族が被害弁償することで、被害者(会社)に現実の被害がなくなるため、不起訴処分で終わる可能性が出てくるという点です。
また、仮に横領犯が起訴されて実刑判決を受けた場合でも量刑が軽くなる可能性があります。

4.横領事件の対応を弁護士に依頼した場合のメリット

横領被害を受けた会社としては、横領した従業員に対し、刑事上、民事上、人事上の責任追及が考えられます。

弁護士に依頼した場合に、それぞれの場面でどのようなメリットがあるか解説します。

(1) 刑事上の責任追及

会社内で起こった業務上横領がなぜ刑事事件として立件されるかというと、被害者である会社が、捜査機関(警察、検察)に対して、被害届や告訴状を出して捜査を求めるからです。

弁護士に依頼することで、会社に対して、被害届や告訴状を出さないよう示談交渉してもらうことができます。尚、刑事事件となった場合には、分割払いの示談では効果はあまり期待できません。

仮に被害届や告訴状が出されてしまった場合や、刑事裁判を起こされた場合にも、初期段階から事案の内容を把握している弁護士であれば、安心して示談交渉等の刑事弁護を依頼できます。

[参考記事]

業務上横領罪で刑事告訴・被害届!横領・着服事件の示談の重要性

(2) 民事上の責任追及

横領した本人は、会社に対して損害賠償する義務を負っています。また、前述のとおり家族も責任を負担する場合があります。

特に横領の被害額が高額である場合に、会社と被害弁償の交渉をまとめるのは容易ではありません。

また、横領したお金を生活費や遊興費に使ってしまい、手もとにお金が残ってないケースも少なくないでしょう。

法律の専門家である弁護士は交渉力にも長け、分割弁済など円満に解決するための交渉を依頼することができます。

(3) 人事上の処分

会社は、不正をはたらいた社員に対し、解雇や減給、降格などの懲戒処分をすることができます。

金銭を横領した場合には懲戒解雇されてもやむを得ませんが、その後の生活に大きく影響します。

弁護士が代理人となって会社と交渉することで、諭旨解雇や退職金なしの自己都合退職などに扱いを変更してもらえる可能性もあります。

5.まとめ

確実に有罪判決になる事件だけ起訴していることも理由ですが、現在の日本では、刑事事件で起訴されると、99%が有罪判決になると言われています。

しかし、これは「起訴されたら」の話であって、早期に被害弁償して示談しておくことで、そもそも不起訴処分で終わる可能性も十分にあります。

刑事事件はスピード勝負です。横領事件を起こしてしまった方やそのご家族は、お早めに刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の刑事事件弁護士にご相談ください。

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