夜道での路上痴漢は何罪になる?|逮捕される可能性と刑罰
「痴漢」というと、電車やバス内での痴漢を想像される方が多いかもしれませんが、実際には路上で痴漢行為が行われることもかなり多いです。
具体的にはどういった行為が「路上痴漢」となるのでしょうか?また、路上痴漢によって逮捕されることがあるのでしょうか?
以下では、夜道などにおける路上痴漢によって逮捕される可能性などについて、刑事事件に詳しい弁護士が解説します。
1.路上痴漢とは
「路上痴漢」とは、読んで字のごとく路上において行われる痴漢行為のことですが、たとえば、以下のような行為が典型例です。
- 通りすがりの女性の胸やお尻に触る
- 道端で後ろから女性に抱きつく、押し倒す
- 自転車に乗っていて、すれ違いざまに女性歩行者の胸をつかむ
- 自転車に乗っていて、追い越す際にお尻を触る
- スカートをめくる
2.路上痴漢は何罪になるか
路上痴漢をすると、どのような犯罪が成立するのでしょうか?
(1) 迷惑防止条例違反
迷惑防止条例とは、暴力的行為やその他の迷惑行為を取り締まる、都道府県の条例です。各都道府県によって多少の違いはありますが、どの条例によっても道路上のような公共の場所で他人の身体に触る痴漢行為は処罰されます。
刑罰の内容は、だいたいどこの都道府県でも、以下の通りとなります。
50万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役刑(常習犯の場合、加重されることがあります)
迷惑防止条例が適用されるのは、比較的悪質性が低い痴漢のケースです。たとえば、すれ違いざまに身体を触ったり、スカートをめくったり、自転車で追い越し際にお尻に触ったりした場合などには、迷惑防止条例違反として立件されるでしょう。
(2) 不同意わいせつ罪
痴漢行為が暴行や脅迫を伴うものである場合には、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)が成立します。
また、被害者が13歳未満の場合には、暴行や脅迫行為を使わなくても、不同意わいせつ罪が成立します。
13歳以上の被害者に対する不同意わいせつ罪が成立するのは、被害者の抵抗を著しく困難にする暴行や脅迫を用いてわいせつ行為を行った場合です。わいせつ行為とは、人の性的羞恥心を害する行為です。
たとえば、夜道、一人歩きの女性に抱きついて押し倒し、衣服の下に手を入れて下腹部を触った場合は、抱きついて押し倒すという「暴行行為」を手段として、下腹部を触るという「わいせつ行為」を行っていますから、不同意わいせつ罪が成立します。
ただし、暴行行為は、わいせつ行為と別途行われる必要はなく、わいせつ行為そのものでもかまわないと考えられています。
そして、自転車に乗ってすれ違いざまや追い越しざまに身体を触るケースでは、身体を触るという「わいせつ行為」は、同時に物理的な有形力の行使である「暴行行為」であって、しかも不意打ちのため被害者が抵抗できる余地のない暴行ですから、不同意わいせつ罪の成立が認められます。
もっとも、法律論として不同意わいせつ罪に問えることと、同罪で立件するかどうかは別問題です。実際には、法定刑の重い不同意わいせつ罪で立件するのは悪質なケースに限定されます。例えば、通行人の女性をしつこく追い回して身体に触り続けたような事案が想定されます。
不同意わいせつ罪は、刑法に規定された犯罪類型であり、刑罰も重いです。6ヶ月以上10年以下の懲役刑のみであり、罰金刑はありません(刑法176条)
3.路上痴漢で逮捕される可能性
それでは、路上痴漢をした場合、警察に逮捕される可能性はあるのでしょうか?
結論を言えば、ケースにもよりますが、もちろん逮捕の可能性は低くはありません。以下で、どのようなケースで逮捕されるのか確認しましょう。
(1) その場で現行犯逮捕される
まず、犯行現場で現行犯逮捕される可能性があります。
その場で被害者が騒ぐなどした場合、周辺住民や周辺にいた目撃者が取り押さえて警察に通報するケースもありますし、被害者に追いかけられ逃げきれずに逮捕されることもあります。
(2) 後日逮捕される
その場では捕まらなかったとしても、後日になってから通常逮捕される可能性があります。
たとえば、路上に設置してある防犯カメラ映像から犯人を特定できることがありますし、被害者や目撃者の供述から犯人が見つかるケースなどもあります。
この場合、警察が加害者宅などにやってきて、警察署へ任意同行を求められたり、通常逮捕されたりすることとなります。
[参考記事]
痴漢は基本的に現行犯逮捕だが、後日逮捕は有り得るのか?
4.逮捕されたらどうなるか
上記のように、路上痴漢でも悪質な場合には逮捕・勾留されてしまうことがあります。
その場合の手続きの流れは、犯罪の内容や被害者の被害感情、加害者の仕事や環境、反省の程度などによって異なってきます。
(1) 逮捕されても勾留されないケース(在宅事件)
1つは、逮捕をされても勾留されないケースです。
警察は、逮捕後48時間以内に検察官に被疑者の身柄を送致します。
検察官は、身柄送致を受けてから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に裁判官にからの勾留請求をしなければ、被疑者を引き続いて身柄拘束することができません。
路上痴漢でも、事情によっては勾留されないケースがあります。
勾留されないのは、被疑者に逃亡の恐れ、証拠隠滅の恐れがない場合です。具体的には以下のような場合です。
- 犯行態様が悪質でなく、被害程度が軽い
- 被害者の被害感情が強くない
- 被疑者が初犯
- 被疑者が定職に就いている
- 被疑者が住居不定ではない
- 被疑者に家族・身元引受人がいる
勾留されない場合には、直ちに釈放されます。
勾留されないようにするには、刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼して勾留阻止活動をしてもらうことをすすめます。
ただし、その後も捜査自体は続き、捜査が終了したら、検察官が起訴するか不起訴処分にするかを決定します。
(2) 逮捕されて勾留が続くケース(身柄事件)
一方、痴漢行為が悪質で不同意わいせつ罪が適用される場合などには、逮捕後引き続いて勾留される可能性が高いです。この場合、警察の留置場に身柄拘束され続けることとなります。
勾留期間は基本的に勾留請求の日から10日ですが、10日では捜査に足りない場合、さらに10日延長することができます(合計で20日が限度です)。
20日の勾留期間が切れると、検察官は起訴するか不起訴にするか、それとも処分を保留したまま釈放するかを決めなければなりません。
不起訴になったら釈放されますが、起訴されると裁判となります。
不同意わいせつ罪は罰金刑がなく略式起訴を選択することはできないので、必ず正式裁判になります。ですから、不同意わいせつ罪の疑いをかけられた場合には、刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。
正式裁判になると、被告人は裁判所に出頭しなければなりません。弁護人と検察官が主張や立証を展開し、最終的に裁判官が判決を下します。
(3) 起訴された後の流れ
不起訴になったら、それ以上痴漢の責任を問われることはありませんが、起訴されると裁判が開かれて、有罪か無罪か、有罪の場合の刑罰が決められます。
路上痴漢で在宅事件になった場合には、ほとんどのケースでは、起訴されれば迷惑防止条例違反で略式裁判となります。略式裁判とは、100万円以下の罰金刑の場合に適用される、書面上のみで行われる裁判です。
在宅事件で略式裁判になると、実際に裁判所で裁判が開かれることはありません。起訴後、被告人が自宅で普通に生活を続けていると、起訴状と罰金の納付書が送られてきます。支払をしたら、刑罰を終えたことになります。
ただし、この略式であっても、罰金の前科はつきます。
以上をまとめると、路上痴漢のケースでは、初犯で迷惑防止条例違反が適用される場合、略式起訴されて罰金刑になる可能性が相当高いと考えると良いでしょう。
[参考記事]
略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い
5.起訴されないために被害者との示談
通常の迷惑防止条例違反などの路上痴漢の場合、逮捕されなかったり、逮捕されても起訴されなかったりすることが多いです。
起訴を免れるには、被害者と示談を成立させることが非常に重要です。
刑事手続きでは、示談が成立していることが、被疑者にとって非常に良い情状となるからです。起訴不起訴の判断が行われる前に被害者と示談ができると、不起訴にしてもらえる可能性が高まります。
ただ、被疑者やその家族が自分達で路上痴漢の被害者と示談を進めることは、非常に困難なものです。そもそも、被疑者は被害者の連絡先どころか、顔さえ知らないということが多いですし、たとえ知っていたとしても被疑者が直接連絡すると被害者は強く拒絶することが予想されるためです。
そこで、刑事弁護経験豊富な弁護士に依頼して、被疑者の弁護人として被害者に連絡をしてもらって、示談を進めるようにしましょう。
弁護士であれば、検察官、警察を通じて被害者から連絡先を教えてもらえることが多く、被疑者の弁護人として連絡を入れて被害者に会い丁寧な対応をして、示談交渉を進めていくことができます。
[参考記事]
痴漢で逮捕された場合の示談交渉は弁護士へ依頼
以上のように、路上痴漢でも、悪質なケースは不同意わいせつ罪として起訴され、懲役刑に処せられる可能性があります。
迷惑防止条例違反として起訴されて罰金で済む場合でも、有罪判決ですから前科として記録が残ります。これを回避するには、被害者との示談が有効です。
泉総合法律事務所では、路上痴漢も含めた刑事事件の弁護経験が豊富な弁護士が揃っています。是非、ご相談ください。