刑法と少年法の違いとは?〜目的、対象者、規定、手続き、刑罰〜
1.はじめに
犯罪は、成人が犯す場合と少年が犯す場合があります。人が犯罪を犯した場合、成人と少年では、適用される法律に違いがあるのでしょうか。
まず、刑法と少年法とを対比しながら、順次、目的の違い、規定対象者の違い、規定対象の違い、手続規定の違い、処分・刑罰の違いを確認し、次に、刑事事件の公判手続と少年審判手続の違い、そして、成人と少年が窃盗を犯した場合の手続の流れ、少年が刑事裁判を受ける場合について説明することとします。
2.刑法と少年法との対比
2-1.目的の違い
⑴ 刑法は、法律としては古く、目的規定はありませんが、適正手続を保障した憲法31条に則って、犯罪と刑罰の関係を示す罪刑法定主義の実体法的実現が目的であると理解することができます。
⑵ 少年法は、その1条において、同法は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定しています。そして、少年の健全な育成という文言から、少年法は、少年が行った過去の犯罪ないし非行に対する応報として少年を処罰するのではなく、その少年が将来二度と犯罪ないし非行を行わないように、その少年を改善教育することが目的であると理解することができます。
2-2.規定対象者の違い
⑴ 刑法は、満14歳以上の者を対象とし(同法41条)、14歳未満の者の行為を不可罰としています。
⑵ 少年法は、原則として、20歳未満の者を対象とします(同法2条1項)。しかし、少年法では、例外的に20歳以上の者に対しても適用される場合があります(例えば、同法26条の4第2項)。他方、14歳に満たない触法少年及び虞犯少年については、いわゆる児童福祉機関等による先議制度が取られています(同法3条2項)から、これらの機関からの送致がありませんと、家庭裁判所の審判の対象とはなってきません。この点で、年齢的な制約があります。
2-3.規定対象の違い
⑴ 刑法は、実体法であり、犯罪と刑罰を規定しています。
⑵ 少年法は、非行(同法3条1項)と保護処分(同法24条1項)について規定しています。なお、同法51条以下に刑の緩和に関する規定があります。
2-4.手続規定の違い
⑴ 刑法は、手続規定ではありませんので、刑事事件と少年事件の手続に関する規定を設けていません。
⑵ 少年法には、少年事件と刑事事件の手続に関する規定が設けられています。すなわち、少年法の手続と刑事事件の手続とは、相互に完全に独立した存在としてあるのではなく、部分的とはいえ相互に関連性を有する存在なのです。具体的にみてみましょう。
少年事件から刑事事件への手続
㈠ 家庭裁判所は、その少年に対して保護処分ではなく、刑罰を科すのが相当であると判断した場合には、決定により、事件を検察官に送致しなければならないとされています(同法20条)。これが、一般に逆送決定と呼ばれます。逆送決定は、少年から保護処分による改善教育を受ける利益を奪うという性格を持つものですから、それがなし得る場合が、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件に限定されています。したがって、罰金のみが法定刑として定められているような軽い犯罪については、逆送決定はできません。
これが形式的な要件ですが、実質的な要件としては、事件の罪質及び情状に照らして刑事処分が相当と認められるということです(同法20条1項)。実務では、少年が保護処分によってはもはや改善の見込みがない場合(保護不能)のほか、保護不能ではありませんが、事案の性質や社会への影響等から保護処分で対処するのが不相当な場合(保護不適)も、これに該当するとされています。
㈡ さらに、行為時点で16歳以上の少年が、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(例えば、殺人、傷害致死、危険運転致死、保護責任者遺棄致死、強盗致死など)の事件については、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときを除いて、逆送決定をしなければならないものとされています(同法20条2項)。これが、原則逆送制度と呼ばれるものです。
? また、家庭裁判所は、調査又は審判の結果、本人が20歳以上であることが判明したときは、決定をもって、事件を検察官に送致しなければなりません(同法19条2項、23条3項)。年齢超過による検察官送致の場合です。
刑事事件から少年事件への手続としては、家庭裁判所への移送があります。裁判所は、事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、決定をもって、事件を家庭裁判所に移送しなければなりません(少年法55条)。
これは、逆送決定に基づき刑事裁判に付された少年についても、その後に要保護性の変化が生じ得ることや、そもそも、可塑性に富む少年の事件については、少年を巡る状況の変化に応じて手続・処分の選択を変更できることが望ましいという観点から、再度、少年保護手続の枠内での処理に戻すことを認めるものです。
2-5.処分・刑罰の違い
⑴ 刑法は、刑罰として、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料及び没収の7種類を規定しています。また、処遇の特殊なものとして、部分執行猶予制度(同法27条の2)等があります。
⑵ 少年法は、上記の検察官送致決定(逆送決定)のほか、次のようなものを規定しています。
① 不処分決定
家庭裁判所は、調査、審判の結果、少年が非行事実を行ったことが認定できない場合や、非行事実は認定できるものの少年に保護処分を行うまでの要保護性が認められない場合には、不処分決定をしなければなりません(同法23条2項)。
② 保護処分決定
家庭裁判所は、調査、審判の結果、要保護性が認められる場合には、少年を保護処分に付する決定をしなければなりません(同法24条1項)。同条項に定められた保護処分は、保護観察、児童自立支援施設又は児童養護施設への送致、少年院送致の3種類です。
3.刑事事件の公判手続と少年審判手続の違い
3-1.公開と非公開
刑事事件の公判手続は、裁判の公開が原則となっています(憲法82条)が、少年審判手続は非公開で行われます(少年法22条2項)。
3-2.手続の基本構造
刑事事件の公判手続は、いわゆる当事者主義構造(対審構造)となっていますが、 少年審判手続は、職権主義構造となっています。
3-3.成人が窃盗を犯した場合の手続の流れ
検察官は、捜査の結果を踏まえ、成人を不起訴処分(起訴猶予)するか公訴提起するかを決めます。公訴提起は、簡易裁判所か地方裁判所になされます。裁判結果としては、罰金、執行猶予付、保護観察付執行猶予、実刑の判決が考えられます。
3-4.少年が窃盗を犯した場合の手続の流れ
少年が窃盗などの事件を起こしますと、捜査機関は、犯罪の嫌疑がある限り、家庭裁判所に事件を送致しなければなりません(少年法41条42条。全件送致主義)。家庭裁判所は、送致された窃盗事件につき、調査の結果、少年に要保護性(将来再び非行を行う危険性があること)が認められない場合には、審判不開始で手続を終了します。少年に要保護性が認められる場合には、家庭裁判所は、保護観察、児童自立支援施設又は児童養護施設への送致、少年院送致のいずれかの保護処分に付す決定(少年法24条1項)をします。
4.少年が刑事裁判を受ける場合
家庭裁判所が刑事処分相当として事件を検察官に送致し、これを受けて公訴が提起されれば、少年も刑事手続において審理裁判されることになります。原則逆送制度の導入により、少年が、殺人、傷害致死、危険運転致死、保護責任者遺棄致死、強盗致死などの罪を犯した場合、少年も成人と同じ刑事裁判を受けることになります。
5.泉総合法律事務所は少年事件の経験も豊富です
以上のように、成人が犯罪を犯した場合と少年が犯罪を犯した場合では、様々な面で違いがあるため、少年事件に精通した弁護士が適切なアドバイスを行い、家族とともに少年の更生を目指す必要があります。少年が事件を起こしてしまった場合には、少年事件の経験豊富な弁護士に相談しましょう。
泉総合法律事務所は、これまで様々な刑事事件弁護活動を行なっており、少年事件についても同じく豊富な経験がございます。初回相談は無料となっておりますので、少年事件でお困りの方はぜひ一度泉総合法律事務所にご相談ください。