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名誉毀損罪・侮辱罪とは?加害者が不起訴処分になるためにやるべき事

名誉毀損罪・侮辱罪の刑事弁護活動で重要なこととは?

【この記事を読んでわかる事】

  • 名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪の構成要件と違い
  • 名誉毀損の罪の具体例、判例
  • 名誉毀損罪で逮捕されてしまった場合の示談交渉の重要性

 

本人にそのつもりはない、軽い気持ちで行ったことだとしても、刑事事件では思わぬところで被疑者となってしまいます。名誉毀損罪などはその典型でしょう。

以下では、名誉に対する罪、名誉毀損罪、侮辱罪と信用毀損罪の違いなどに触れながら、名誉毀損罪の弁護活動について解説します。

なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

1.名誉に対する罪

人は、その社会生活において、自ら一定の地位ないし評価を得ており、これをみだりに低下ないし毀損されない利益を有しています。

刑法は、これを侵害する犯罪として、名誉に対する罪(第2編第34章)並びに信用及び業務に対する罪(同第35章)を規定しています。

名誉に対する罪は、人の名誉を保護法益とする犯罪を処罰するものであり、公然、人の名誉を傷つける行為を内容とするものです。

刑法は、名誉に対する罪として、名誉毀損及び侮辱の両罪を規定していますが、名誉毀損罪については、公共の利害に関する場合に、事実証明による犯罪不成立の特例が設けられています。

2.名誉毀損罪

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損することによって成立するのが原則です(230条1項)。

(1) 客体

人の名誉です。「名誉」とは、人の価値に対する社会的評価をいいます。

人の価値には、行為や人格に関するものに限らず、身体的・精神的資質、政治的・学問的・芸術的能力、容貌、健康、職業など社会において価値があるとされているものの一切が含まれます。

ただ、経済的な支払能力は、信用毀損罪の保護法益とされていますので、ここにいう名誉には含まれません。人の価値に対する社会的評価は、人の真価と合致する必要はなく、虚名もまた名誉です。

「人」は、自然人であると、法人であると、法人格を有しない団体であるとを問いません。

(2) 行為

行為は前記のとおりです。

①公然の意義

「公然」とは、不特定又は多数人の認識し得る状態をいうとするのが通説及び判例(最判昭36.10.13刑集15・9・1586等)です。

すなわち、不特定の者が認識し得るのであれば、それは少数の者でもよく、また、多数の者が認識し得るのであれば、それは特定していてもよいのです。

現に不特定又は多数の者によって認識されたことは必要ではありません(大判昭13.2.28刑集17・141)。

②事実の摘示の意義

「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を低下させるおそれのある具体的事実を指摘・表示することをいいます。

この事実は、悪事醜行に限らず(大判大7.3.1刑録24・116)、その真否を問わず(ただし、後述する230条の2)、公知の事実でもよいのです(大判大5.12.13刑録22・1822)。

事実を摘示する方法には特に制限はなく、口頭、文書・図画、身振り等のいずれでもよいわけです。事実は、事実そのものとしてではなく、風聞、噂、伝聞等として表示されてもよいのです。

その効果において、事実そのものを表示したのと異なるところがないからです。

③名誉を毀損の意義

「名誉を毀損」するとは、人の社会的評価を低下させるおそれのある状態を作出することをいいます。

現実に社会的評価が低下したことは必要ではありません(前掲大判昭13.2.28)。

④死者の名誉毀損行為

死者の名誉毀損行為については、虚偽の事実を摘示することによってした場合においてのみ罰せられます(230条2項)。

死者に関する事実については、歴史的評価の対象として、真実に基づくものである限りその批判を許す趣旨です。

その法益については、死者の遺族の名誉であるとする説などもありますが、死者自身の名誉であると解するのが通説です。

事実が虚偽であり、そのことについて認識していることが必要ですから、誤って虚偽の事実を摘示して名誉を毀損しても名誉毀損罪は成立しませんが、虚偽性の認識は確定的なものである必要はなく、一般の故意犯におけると同様に未必的な認識でも足りると解されます。

ただし、名誉毀損をした後、名誉を毀損された者が死亡した場合には、通常の名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったということのみでは免責されません(230条の2の適用が問題となります。)。

なお、死者の名誉毀損罪の告訴権者は、死者の親族又は子孫とされています(刑事訴訟法233条1項)。

(3) 公共の利害に関する場合の特例(230条の2)

①趣旨

名誉毀損罪は、人の名誉を保護するため、前記のとおり、摘示された事実が真実であるか否かを問わず成立を認めるのが建前です。

他方、民主主義社会における言論の自由は、健全な批判精神を伴うものでなければならず、その観点からは、仮に人の名誉を傷つけることになっても、公共の利益のために一定の事実を明らかにすることが望ましいこともあるといわなければなりません。

そこで、刑法は、公共の利害に関する事実を専ら公益を図る目的で摘示した場合に、その事実が真実であることが証明される限りこれを罰しないものとし(230条1項)、名誉の保護と正当な言論の自由との調和均衡を図ることとしたのです。

②特例の対象となる行為

230条1項に該当する人の名誉を毀損する行為に限られ、虚偽事実の摘示を要件としていて事実証明の問題を生じない死者の名誉毀損行為(230条2項)、具体的な事実の摘示のない侮辱行為(231条)には適用がありません。

③特例の要件

特例の要件は、

  • 摘示事実が公共の利害に関する事実であること
  • その目的が専ら公益を図るためであること
  • 摘示事実が真実であることの証明があったこと

です(230条の2第1項)。

なお、公訴提起前の人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされます(230条の2第2項)。

④公務員及びその候補者に関する事実(230条の2第3項)

名誉毀損行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実の場合は、㈠事実の公共性及び㈡目的の公共性を要件とせず、真実であることの証明があっただけで処罰されません。

これは、全体の奉仕者であり、かつ、その選定・罷免が国民固有の権利とされている(憲法15条1項2項)公務員に関する事実は、真実である限り、広く国民の監視下に置き、自由な批判にさらそうという考えによるものです。

⑤効果

これを罰しないものとされていますが、「罰しない」の意味については、処罰阻却事由説、違法性阻却事由説、構成要件阻却事由説があり、違法性阻却事由説が通説となっています。

なお、判例は、真実であることの証明ができなかった場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信したことにつき確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損罪は成立しないとして、従来の処罰阻却事由説(最判昭34.5.7刑集13・5・641)の立場を変更しました(最大判昭44.6.25刑集23・7・975)。

また、インターネットの個人利用者による表現行為についても、判例は、他の表現手段を利用した場合と同様に、

「行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪が成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない」

と判示しています(最決平22.3.15刑集64・2・1)。

(4) 処罰

3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金が科せられます。なお、名誉毀損罪は親告罪です(232条1項)。

(5) 具体例

名誉毀損罪に該当すると判断された事例としては、

「選挙のときに何か不正な事をしてH署に1週間もほり込まれたりする様な人々を町内の衛生役員にしたくない」などと記載した事案(大判昭7.7.11刑集11・1250)
「手前の祖父は詐欺して懲役に行ったではないか」などと言った事案(最決昭29.5.6裁判集刑事95・55)
「今まで何十軒となく泥棒をしている」などと言った事案(最判昭31.5.8裁判集刑事113・453)

などがあります。

また、講学上の事例ですが、「Xはゼネコン業者から多額の賄賂を受け取っている」、「XはIQが70以下だ」、「X教授は、妻子がいるのに、女子学生と不倫関係にある」などと多衆の前で言った事案も、名誉毀損罪に該当します。

しかし、「Xは馬鹿だ」、「Xは浮気者だ」、「X社は悪徳企業だ」などと多衆の前で言ったとしても、具体的な事実の摘示とはいえず、抽象的なものにとどまりますから、この場合は、侮辱罪の成立にとどまります。

3.侮辱罪と信用毀損罪の違い

侮辱罪と信用毀損罪の違い

(1) 侮辱罪(231条)

侮辱罪は、事実を摘示しなくとも、公然と人を侮辱することによって成立します。

侮辱罪の保護法益については、外部的名誉と解する説と名誉感情であると解する説とがありますが、前者が多数説です。

①客体

人です。保護法益を外部的名誉であると解する立場からは、「人」は行為者以外のものをいい、名誉感情を有しない幼児・精神病者、法人、法人格を有しない団体等はすべて含まれます。

死者は含まれないと解されます。

②行為

行為は前記のとおりです。

「事実を摘示しなくとも」とは、事実を摘示せずにの意味であり、この点で名誉毀損罪と区別されるとするのが通説及び判例(大判大15.7.5刑集5・303)。

「侮辱」とは、人の社会的評価を低下させるような抽象的判断を発表することをいい、必ずしも相手方の名誉感情を害することを要しません(前掲大判大15.7.5)。その方法には、特に制限はありません。

③処罰

拘留又は科料を科せられます。なお、侮辱罪も親告罪です(232条1項)。

(2) 信用毀損罪(233条前段)

信用毀損罪は、虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて人の信用を毀損することによって成立します。

①客体

人の信用です。「信用」とは、人の経済的活動に関する社会的評価をいいます。

そして、その意義に関して判例に変遷があり、最判平15.3.11刑集57・3・293は、人の支払能力・意思に対する社会的評価に限定していた大審院判例を変更し、販売される商品の品質に対する社会的な信頼は「信用」に含まれるとしました。

「人」には、自然人のほか、法人その他の団体も含まれます。

②行為

行為は前記のとおりです。

「虚偽の風説を流布」するとは、事実に反する人の噂を不特定又は多数人に伝えることをいいます。

特定かつ少数の者を相手とする場合であっても、そこから不特定又は多数人に伝播する可能性がある場合には「流布」に当たります(大判昭12.3.17刑集16・365)。

「偽計を用い」るとは、人を欺罔・誘惑し、又は人の錯誤・不知を利用することをいいます。

「毀損」するとは、人の信用を害するおそれのある状態を作り出すことをいい、現実に信用が低下することは必要でありません(大判大2.1.27刑録19・85)。

③処罰

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

4.名誉に対する罪のまとめ

名誉毀損罪侮辱罪信用毀損罪
客体人の名誉人の信用
行為公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すること(真否を問わない)事実を摘示しなくとも、公然と人を侮辱すること虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて人の信用を毀損すること
処罰3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金拘留又は科料3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

5.名誉毀損罪の弁護活動

もともと名誉に対する罪で起訴される人数は少なく、起訴の場合も、公判請求ではなく、略式起訴が多いと指摘されています。

そして、悪質でなければ、告訴の有無にかかわらず、名誉毀損罪で逮捕されることも稀です。

しかし、加害者と被害者との関係が近い場合、常習性がある場合、態様が悪質である場合には、告訴がされるでしょうから、逮捕される可能性が高くなります。

もっとも、逮捕されたからといって、必ず前科がつくというものではありません。前科としての履歴は、刑事裁判において有罪判決を受けた場合に生じます。

しかし、被疑者の立場からすれば、仮に、略式手続を経て罰金で終わっても、前科がつくわけですから、略式起訴を免れたいはずです。

罪を犯した事実があっても、検察官の裁量により起訴されない場合(起訴猶予)には、刑事裁判が行われませんので、その罪が前科として残ることはありません。

※起訴猶予に関して詳しく知りたい方は、「不起訴の起訴猶予は無罪なのか?処分保留との違い」をご覧ください。

(1) 起訴猶予と示談成立

起訴猶予の多くは、弁護士が被害者と示談交渉して示談を成立させた場合によるものです。

しかも、名誉毀損罪は親告罪ですので、検察官としては被害者の告訴がなければ起訴ができませんし(232条1項)、その告訴は、「犯人を知った日」から6か月以内にしなければなりません(刑事訴訟法232条1項本文)。

したがって、被害者の告訴がなければ、不起訴処分で終わることになります。

さらに、被害者と示談が成立すれば、被害者が、告訴を思いとどまったり、告訴を取り下げる可能性も出てきます。

被害者に対する誠意ある謝罪と慰謝の措置を講じることで、早期に示談が成立すれば、被疑者に有利な処分結果が出ることが期待できるのです。

名誉毀損罪においては、示談がいかに重要かをお分かりいただけたことと思います。

5.まとめ

本人に大きな悪気がなくても、名誉毀損で検挙され、逮捕されてしまうことがあります。

刑事事件はスピードが命ですので、もし逮捕されてしまったら、お早めに弁護士にご相談ください。

被害者と示談することで不起訴になり、前科がつくことを免れることができる可能性があります。

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