暴力事件 [公開日]2018年6月5日[更新日]2021年4月30日

ネットの誹謗中傷で逮捕される?|名誉棄損罪・業務妨害罪

誰でも手軽に情報発信できるインターネットの世界では、リアルでは言えないようなことでも軽い気持ちで投稿してしまいがちです。
しかし、不用意な言動により他人を誹謗中傷してしまうと、法的な責任を問われることもあります。

ネット社会における誹謗中傷が社会問題となっている昨今、発信者を特定する手続きを迅速化させるための法改正や、厳罰化の検討が進められています。

今回のコラムでは、ネット上で誹謗中傷をしてしまった場合、「どのような罪に問われるのか」「逮捕されたり前科がついたりする可能性」「誹謗中傷をしてしまった場合の善後策」について解説します。

1.法律から見るネット誹謗中傷(罪名)

SNSや掲示板は自由で多様な言論の場ですが、他人の権利を侵害する言動は罪に問われることもあります。

どこからが違法な誹謗中傷となるのかの線引きは、法的な評価によるため判断が難しい面もありますが、成立する可能性がある罪について解説します。

(1) 名誉棄損罪(刑法230条)

特定の個人や会社について、社会的評価を低下させるような具体的事実をネット上に表示させると「名誉棄損罪」に問われることがあります。

「社会的評価を低下させるような事実」とは、平たく言えば世間の評判を悪くするような事実で、次のような言動が典型例といえるでしょう。

「○○は痴漢の常習者で逮捕歴もある」
「○○はギャンブル依存症で多額の借金がある」

このような事実は、虚偽である場合はもちろん、真実であったとしても罪に問われます。

罰則:3年以下の懲役または禁錮若しくは50万円以下の罰金

(2) 侮辱罪(刑法231条)

特定の個人や会社について、「〇〇はバカ」「○○は仕事ができない無能」「〇〇はブラック企業」など、具体的な事実ではなく侮蔑的な評価をネット上に表示させると「侮辱罪」に問われることがあります。

罰則:拘留(30日未満刑事施設へ収容される刑)または科料(1万円未満を徴収される刑)

名誉棄損罪と侮辱罪については、以下のコラムで詳しく解説しています。

[参考記事]

名誉毀損罪・侮辱罪とは?不起訴処分に向けた弁護活動

(3) 信用毀損罪・業務妨害罪(刑法233条)

虚偽の情報をネット上に表示させて人の信用を毀損したり、他人の業務を妨害したりした場合、信用毀損罪・業務妨害罪が成立することがあります。

例えば、「○○店で注文した料理に異物が混入していた」という真実に反する情報を表示することは「虚偽の風説を流布し」て、商品の品質に対する「信用を毀損した者」として、信用毀損罪に該当します。

また「(震災後に)〇〇動物園のライオンが放たれた」「○○駅に爆弾を仕掛けた」というような虚偽の事実を流布して、必要のない警備をさせたり、休園や運行休止をさせたりして業務を妨害する危険を生じさせた場合に業務妨害罪が成立します。

罰則:3年以下の懲役または50万円以下の罰金

[参考記事]

クレーム電話で逮捕・罰金・懲役!?威力業務妨害罪とは?

2.被害者の対応策(投稿の削除・発信者の特定)

誹謗中傷の投稿をしてしまった場合、どのようにして発信者が特定されるのか、刑事事件として立件される可能性があるのか気になるところではないでしょうか。

インターネットで誹謗中傷された被害者の対応策としては、投稿の削除発信者の特定の二つの方法があります。

投稿の削除は、SNSや掲示板の管理者に対して、「送信防止措置の依頼」や裁判所の民事保全手続きにより行うのが一般的です。

一方で、発信者の特定は、プロバイダ責任制限法という法律に基づく「発信者情報開示請求」という手続きを取られるのが一般的です。
被害者は、次の条件を満たせば、プロバイダに発信者の個人情報の開示を請求できます(同法第4条1項)。

① 請求者の権利が侵害されたことが明らかであること
② 損害賠償請求の行使その他、開示を受けるべき正当な理由があること

請求を受けたプロバイダは、情報の開示について発信者の意見を聴かなければなりません(同法第4条2項)。

このため、被害者がこの手続きを利用すると、発信者のもとに契約しているプロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」という書類が送付されてきます。

その書類が届くと、近々発信者が特定されてしまい、刑事告訴や損害賠償請求などの法的措置を受ける可能性が高いことを意味しています。

[参考記事]

ネット誹謗中傷で訴えられたらどうすれば良い?

なお、発信者が投稿やアカウントを削除しても、プロバイダがデータを復元することは容易ですし、被害者がスクリーンショットを保存してあれば十分な証拠となります

いったんネット上で誹謗中傷をしてしまうと瞬時に拡散されてしまい、投稿の削除では被害者の被害を解決できませんが、加害者側も簡単に罪を逃れることはできないのです。

3.ネット誹謗中傷による逮捕・前科

現在、ネットの誹謗中傷が事件になると注目を集めやすいです。名誉棄損による逮捕事例がニュースとして取り上げられることも珍しくなくなりました。

発信者が特定されると、被害者は法的責任を追及するために刑事告訴をしたり、民事訴訟を提起したりすることが可能になります。

(1) 逮捕される基準

刑事事件として立件された場合でも、必ず逮捕されるわけではありません。
現行犯で逮捕される場合を除いては、裁判官が逮捕の必要性を審査した上で逮捕状を発付しなければ逮捕することはできないのです。

逮捕の必要性は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれという観点から判断されます。

【逃亡のおそれがあると判断されやすい要素】
・厳しい刑が予想される(殺人罪など重い罪を犯した、前科がある)
・身軽な身上である(定職に就いていない、一人暮らし)

【証拠隠滅のおそれがあると判断されやすい要素】
・罪を認めていない(証拠を隠したり被害者に働き掛けたりする可能性)
・共犯者がいる(口裏合わせをする可能性)

ネットの書き込みによる名誉棄損罪や侮辱罪、信用毀損罪・業務妨害罪は、必ずしも重罪とは言えず、犯行態様も単純で悪質性が低いので逮捕される可能性は高いものとは言えません。

しかし、定職を持たない独身者などの場合は、逮捕される可能性は否定できず、現に逮捕の例もある以上は安易に考えるべきではありません。

(2) 起訴されて前科がつく可能性

誹謗中傷で刑事事件になった場合でも、必ず起訴されるわけではありません。

まず、名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪ですから、被害者の告訴がなければ起訴できません。被害者との示談を成立させて、告訴を取り下げてもらえば、起訴されることはなく、前科はつきません。

他方、信用毀損罪・業務妨害罪は非親告罪であり、告訴がなくとも起訴できます。

起訴不起訴は、検察官の裁量で決まります。前科・前歴の有無と内容、犯行の動機・態様の悪質性、被害の深刻さ、反省の度合いなど一切の事情が考慮されます。

中でも被害者の処罰感情の有無、強弱は、検察官の判断に大きく影響します。信用毀損罪・業務妨害罪の被害者と示談を成立させて、示談金を支払い、宥恕(※寛大な気持ちで許すこと)を得ることができれば、被害者の処罰感情は無くなり、被害も示談金によって金銭的に回復していますから、不起訴の判断を得やすくなります。

たとえ罰金刑で済んでも前科となりますから、不起訴となるに越したことはありません。
罰金でも前科です!

仮にネットで誹謗中傷をして起訴の恐れがある場合は、被害者へ謝罪し示談を成立させるのが唯一の解決方法といえます。

しかし、投稿をした本人が被害者と接触することは、被害感情を悪化させる可能性もありお勧めできません。

示談交渉の経験が豊富な泉総合法律事務所であれば、被害感情にも配慮した交渉のノウハウがあり、適正な示談と刑事告訴の回避が期待できます。

4.誹謗中傷をしてしまったら弁護士に相談を

警察庁が公表した資料 によれば、2020年に全国の警察でインターネット関連の名誉棄損罪の検挙件数は291件でした(※1)。
他方、2019年のインターネット関連の名誉毀損・誹謗中傷などの相談件数は1万1406件と報告されています(※2)。

※1:「令和2年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」27頁
※2:「平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」7頁

この数字からすると、誹謗中傷の被害を警察に相談しても、必ず捜査が行われるわけではなく、投稿内容や執拗さなどをみて悪質と判断した事案に絞って捜査のリソースを割いているのが現状のようです。
しかし、冒頭でも触れたとおり、インターネット上の誹謗中傷に対する社会の目は厳しさを増しており、警察の運用に変化がないとも限りません。

弁護士に相談するのは警察沙汰になってからと考えられるかもしれません。
しかし、名誉棄損罪や侮辱罪は親告罪であるため、刑事告訴の回避が大きなポイントとなります。

弁護士のサポートは着手が早ければ早いほど効果が大きく、被害者に対して早期に誠意を示すことで刑事責任の追及を免れる可能性も大きくなります。
どうぞお早めに、刑事事件に強い泉総合法律事務所へご相談ください。

刑事事件コラム一覧に戻る