薬物事件 [公開日]2020年5月25日[更新日]2021年6月28日

大麻の譲渡・譲受・売買の証拠って何?

最近、薬物犯罪の容疑で有名人が逮捕される事件が増加しています。
薬物事件に限らず、犯罪を犯した場合は逮捕される可能性があります。しかし、犯罪を犯したという「証拠」がないと、警察は逮捕を行うことはできません。

それでは、大麻事件の譲渡や売買の証拠とはどのようなものなのでしょうか?ここでは、大麻の譲渡・譲受・売買の証拠について解説します。

1.大麻取締法の規制

薬物と言っても、大麻、覚せい剤、アヘン等様々なものがあります。これら薬物の規制は1つの法律でまとめて規制されているのではなく、個別に法律が定められています。

大麻取締法」は、大麻を規制しています。同法は、大麻に関する様々な行為を規制していますが、一般の方にかかわる主な規制は、大麻の輸入・輸出、栽培、譲渡、譲受、所持です。罰則は以下の通りです。

輸出入、栽培
非営利目的の場合:7年以下の懲役
営利目的の場合:10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金が併科される可能性がある

譲渡、譲受、所持
非営利目的の場合:5年以下の懲役刑
営利目的の場合:7年以下の懲役刑。200万円以下の罰金を併科される可能性がある

このように、大麻取締法違反は、罰金刑だけでなく懲役刑まである重大な犯罪です。

なお、譲渡・譲受は対価を伴う有償の場合も、対価を伴わない無償の場合も含まれます。このうちの、有償の譲渡・譲受が売買です。

営利目的とは、譲渡・譲受によって、財産上の利益を得る動機があることです。売買の売主は、通常は財産上の利益を得る動機がありますが、仕入れ値で売却したケースでは営利目的は認められません。

他方、例えば転売する目的で大麻を無償で譲受けた場合は、営利目的が認められますから、営利目的と譲渡・譲受の対価の有無は、必ずしも一致しないことに注意してください。

ところで、大麻取締法では大麻の自己使用は処罰対象となっていません。他の薬物犯罪では自己使用の罪はあるのに、なぜ大麻は自己使用罪がないのでしょうか。

これについては、下記の記事をご覧ください。

[参考記事]

大麻所持と使用の罪の違いとその理由|所持せず使用とはどういうことか

2.大麻譲渡・譲受・売買の証拠とは

被疑者を逮捕する場合、罪を犯したと疑うに足りる証拠が必要です。

証拠不十分だと、逮捕が認められなかったり、起訴しても無罪判決となったりします。そのため捜査機関は、被疑者の自宅を家宅捜索するなどして、証拠物の差し押さえ等を行うのです。

では、大麻の譲渡・譲受・売買の証拠は、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?

(1) 大麻草と使用した容器

薬物犯罪において、薬物それ自体は非常に重要な証拠です。無論、大麻草も例外ではありません。

譲渡・譲受・売買における「実行犯」の場合、大麻それ自体が、一時的にせよ被疑者の支配内に存在したことになります。

したがって、大麻を所持した事実は譲渡・譲受・売買を推認する間接事実のひとつであり、大麻所持を裏付ける証拠は、譲渡・譲受・売買の間接証拠のひとつとなります。

この意味で、譲渡・譲受・売買においても、大麻それ自体は重要な証拠と言えるのです。

捜査機関による被疑者住宅の捜索で大麻草が発見された場合、大麻所持の証拠となります。

また、大麻草自体はなくとも、大麻の繊維や樹脂などが付着した使用済みのストローなどがあれば、大麻を所持していたことを推認させる証拠のひとつとなります。

ただ、所持は、あくまでも間接事実のひとつですから、それだけで譲渡・譲受・売買を立証できるわけではありません。

(2) 尿検査による大麻の陽性反応

職務質問に際して行われた尿検査で大麻の陽性反応が出た場合、大麻取締法違反の証拠となります。

大麻の自己使用は処罰対象となっていませんが、大麻を所持せずに使用することは通常はありません。そのため、尿検査による反応=大麻を所持していたことを推認させる証拠のひとつとなります。

ただ、先に説明したとおり、大麻を所持していた事実は、譲渡・譲受・売買の間接証拠のひとつとはなりますが、それだけで譲渡・譲受・売買を立証できるわけではなく、尿検査における大麻の陽性反応があったというだけでは、譲渡・譲受・売買の証拠としては不十分です。あくまでそれらの事実を推認させ得る事実である所持についての証拠の一部分に過ぎません。

なお、尿検査は、被疑者の任意で行われます。もっとも、被疑者が尿検査を拒み続けている事案においては、捜査機関は、最終手段として裁判所の許可を得たうえで、強制採尿を実施する場合があり、一定の要件のもとでは適法とされています(※最高裁昭和55年10月23日決定)。

[参考記事]

警察の尿検査は拒否できる?反応が出たら逮捕・起訴されるのか

(3) 犯行の現場

捜査機関や第三者に大麻の取引に関する現場を見られた場合、その者の供述は大麻譲渡・譲受の直接的な証拠となります。

もっとも、薬物の取引は公に行われるものではないので、通常の方法では、取引現場をおさえることはできません。

しかし、薬物犯罪においては、おとり捜査が行われる場合があります。そのため、大麻取引の相手方や関係者が捜査機関やその協力者であり、取引現場で現行犯逮捕されるといったこともありえるのです。

(4) メールやライン、通話等の通信

大麻取引に際しては、事前に当事者間の交渉があるのが通常です。そのため、交渉がメールやLINE、電話で行われた場合、その通信内容が譲渡・譲受・売買の直接の証拠となり得ます。

捜査機関は、通常の捜査では現に行われている通信内容を把握するのは困難です。しかし、薬物犯罪の場合、通信傍受法に基づいた傍受が行われることがあり、この捜査方法により薬物取引の通信内容を把握でき、逮捕状請求につなげることができます。

なお、傍受でなくとも、被疑者が逮捕済みであれば、その携帯電話、スマホ、パソコンを押収して内部のデータを取得することができます
仮に、被疑者がデータを消去していたとしても、通信会社の保管データから過去のやりとりに関する情報を得ることができます。

むしろ現代では、通信インフラを利用した犯罪は、ほとんど当局に「筒抜け」と考えた方が実態に合っています。

(5) 被疑者本人の自白

被疑者の自宅、カバン、衣服のポケットなどから大麻やその繊維、加工物などが押収された場合や、薬物反応で自己使用が明らかとなった場合、大麻の所持が推認されます。

大麻を所持していた可能性が高くなった以上は、①誰から入手して所持したのか?や、②所持した大麻はどうしたのか?を、取調べで追及されます。

よくある言い訳としては、①については「野生の大麻を採取してきた」「知らない外国人に無理矢理わたされた」、②については「怖くなって捨てた」というものがありますが、厳しく追及された結果、入手元・譲渡先を明らかにした自白が譲渡・譲受・売買の証拠となるケースが大部分です。

3.大麻取締法違反で逮捕されたら

大麻取締法違反で逮捕された場合、警察署にある留置場に身体を拘束されます。逮捕中は家族との面会はできず、弁護士との接見しか許されません。

また、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるとして、検察官が勾留請求し、裁判官が勾留決定すると、逮捕に引き続き10日間身柄を拘束されてしまいます。その後勾留延長された場合、勾留期間は最大20日間にも及びます。

その後、検察官によって起訴がなされると裁判となります(薬物犯罪の場合、初犯でも起訴される可能性は非常に高いです)。

検察官は証拠を押さえた上で起訴をしますので、被告人はほとんどのケースで有罪となり前科がついてしまうでしょう。

ここまで聞くと、大麻取締法違反で逮捕されたらどうすれば良いのか、被疑者の方やその家族は非常に不安に思うのではないでしょうか。

大麻取締法違反では、真っ先に弁護士にご相談ください。

弁護士は、すぐに逮捕されている被疑者の元に駆け付け、取り調べで何を話すべきか、これからどうするべきか、二度と薬物に手を出さないようにするためにはどうすれば良いのかを親身になってアドバイスしてくれます。

また、被疑者を身体拘束から早期釈放するための活動、不起訴処分(起訴猶予)を獲得するための活動、保釈請求、さらに裁判となった場合には執行猶予判決を目指す弁護活動を行ってくれます。

仮に、大麻取締法に違反することが明らかだとしても(犯罪が現実だとしても)、刑を軽くするための弁護活動は行えるのです。

[参考記事]

身に覚えのない大麻所持で逮捕→不起訴に!大麻取締法違反の解決事例

【違法捜査の問題性】
特に、薬物犯罪においては、違法捜査が問題となる事例が多いです。違法捜査が行われ、重大な人権侵害があると、違法捜査によって獲得した証拠の提出が認められず、したがって証明すべき事実の立証ができなくなるために無罪判決がなされる場合があります。
法的手続きに則った方法を取らないで集められた証拠で国民を有罪として処罰することを認めるならば、捜査機関は法によらない勝手な活動が可能となり、人権侵害を抑止できないこと、裁判所が違法行為を認めることになり国民の信頼を失う危険があることなどが理由とされています。
違法捜査が行われた場合、弁護士はその旨を指摘し、無罪判決獲得を目指します。

4.まとめ

大麻取締法違反で有罪判決となると、執行猶予がついたとしても、前科となってしまいます。

そのような事態を回避するためにも、薬物事件等の刑事事件は泉総合法律事務所に早急にご相談ください。

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