大麻取締法違反!身に覚えのない大麻所持で逮捕は不起訴にできるか?
近頃、芸能人をはじめとした若者の薬物汚染について、連日ワイドショー等で大きく取り上げられています。売買・営利目的の輸入や室内栽培、種や苗の譲渡・譲り受けなど内容は様々です。
また、逮捕された方の中には、「大麻の正当性や効能」について持論を展開されるケースも少なからず見受けられます。「世界では合法化されているところもある、どうして日本では吸ってはいけないのか」と。
ここでは、大麻取締法違反についてと、大麻所持で逮捕されたらどうなるのか、大麻と知らずに所持していた場合はどうなるのかなどを解説します。
1.大麻の効能・副作用
インターネット上では、大麻の合法化・解禁をめぐる熱い論争が活発化しています。
「大麻は吸引しても、微量なら依存症も副作用もなく無害だ」との主張に対し、「常習的に吸うと幻覚や妄想が強くなるし、体への影響も大きく危険性が高い」との反発の声もあります。
これらの議論自体は一旦横に置くとしても、「大麻所持」は痴漢や詐欺などと同様、刑事事件としては身近に存在する罪であることは間違いないでしょう。
まったく身に覚えがないのに「大麻所持の現行犯」で警察に逮捕されることすらもあります。
以下、大麻と知らず所持し、大麻取締法違反で現行犯逮捕されてしまった方の解決事例をご紹介致します。
【参考】マイナー薬物まで徹底解説!薬物事件を取り締まる法律の種類と刑罰
2.大麻取締法違反での逮捕の流れ
泉総合法律事務所が過去に取り組んだ刑事事件で、大麻(別名:マリファナ、葉っぱ、モク、ガンジャ)の所持の現行犯逮捕の刑事事件の弁護を、ご家族から依頼されたことがあります。
(1) 否認の場合の弁護
被疑者は、所持しているものが大麻であるとは知らなかったとのことでした。
被疑者は公的資格所有者であることがわかり、大麻所持で起訴されれば公的資格を取消されることがわかりましたので、何が何でも不起訴を勝ち取らなければなりませんでした。
しかし、現行犯逮捕ですので、不起訴となるにはかなりハードルが高いと考えられました。
(2) 警察の取り調べ
警察は、被疑者から自白を引き出すための取り調べをしていきます。
弁護方針としては、違法薬物の認識がないことが事実であれば、被疑者本人に取り調べで認識がないことを供述してもらい、その供述を最後まで維持してもらうことになります。
違法薬物の現行犯逮捕で、違法薬物所持の故意を否認している場合だと、警察は非常に厳しい態度をとるものです。
被疑者には、警察の取り調べが極めて厳しいものになることを事前に伝えるとともに、所持した物が違法なものかもしれないとの供述を必ず取りに来ることと、そこで認識にかかわることは一切供述しないように助言しました。
供述しないことは「黙秘権」という憲法上の権利ですから、何ら問題はありません。供述しないから不利になるのではないかとの心配は無用です。
【参考】黙秘権を行使すると不利?警察の逮捕・取調べと被疑者の人権
・被疑者ノート
今回に限らず、被疑事実を被疑者が争う場合には、弁護士は被疑者に日弁連作成の被疑者ノートを差し入れます。
被疑者ノートは、取り調べの状況や取り調べ内容をその都度被疑者に書いてもらい、問題ある違法な取り調べ(長時間に及ぶ取り調べも時によっては違法な取り調べになることがあります)がないかどうか弁護士がチェックし、問題があれば警察署長に抗議を行います。
起訴された場合には、違法な取り調べに基づく自白を理由として無罪を目指して争うことになります。
また、被疑者ノートを差し入れることで、取り調べにあたる警察官が違法な取り調べを自重するという効果も期待できます。
【参考】被疑者ノートとは何ですか?どう利用するのですか?(よくある質問)
(3) 接見による励まし
証拠が十分かどうかで、検察官は起訴するかどうかを判断します。
一番の証拠は自白ですので、警察は証拠が十分ない場合には、何としても自白を取ろうと連日厳しい取り調べをして精神的に追い込み自白を取りに来ます。
今回のケースも、被疑者は日を追うにつれて厳しい取り調べで精神的に参ってしまいましたので、警察の誘導に乗って<b虚偽の自白の供述をしてしまう可能性がありました。
担当弁護士は、毎日時間帯を問わず接見し、取り調べにあたっての注意点、違法なものかもしれない供述はどんなに精神的につらくてもしないこと、そもそも認識にかかわることは供述しないことを何度も念押しし、同時に励まし続けました。
(4) 20日間の勾留期間終了・不起訴獲得
毎日接見して励まし続け、やがて勾留延長を含め20日間の勾留満期を迎えました。起訴は免れないと思っていたところ、不起訴という思いがけない喜ばしい結果となりました。
懲役、実刑ももちろん免れました。逮捕勾留で合計22日間、毎日励まし続けて本当によかったと心の底から思ったものです。
このように、違法薬物の種類によっては、不起訴となることも少なからずあります。薬物事件の刑事弁護が、経験ある弁護士に依頼することをお勧めします。
3.精密検査・尿検査
(1) 検査にかかる日数と勾留
違法薬物かどうかは簡易検査キットで判断されますが、簡易検査キットは正確性が十分ではないことから、違法薬物かどうかは警察の科学捜査研究所(以下、科捜研という)で精密検査を受けてその検査結果で確定されます。
その検査にかかる時間は、科捜研の事情にもよりますが、2週間前後かかるとお考えください。逆に言えば、それまでは検査結果が出ませんので、被疑者も釈放されることなく勾留されることになります。
(2) 検査の拒否は困難
違法薬物かどうかの検査は、所持していた物が押収され、その押収されたものを検査します。よって、当然拒否することは困難です。
また、違法薬物を所持していたということは、所持にとどまらず使用していた可能性も高いことから、違法薬物かどうかの検査に加えて違法薬物を使用していたかどうか尿検査も通常行われます。
この検査も科捜研で行われますが、2週間前後かかるとお考え下さい。
尿検査を拒否することは、違法薬物かどうかの検査と異なり任意のため、検査を拒否することはできます。しかし、拒否した場合でも警察は強制採尿の令状を取り付けます。カテーテルで強制的に尿を採取して検査することになるので、任意の検査を拒否するのは無駄な抵抗となるでしょう。
(3) 検査結果で懲役・実刑を回避できるか
違法薬物が簡易検査キットで黒と判定されたら、科捜研での検査も通常黒と考えて弁護するのが通常です。しかも、違法薬物所持の現行犯逮捕ですから、違法薬物所持という犯罪の客観面については争う余地がないことになります。
そこで、弁護は違法薬物であることを知っていたかどうかという認識、故意の有無が焦点となり、その点に重点を置いた弁護活動を行うことになります。
4.大麻所持の故意の認定
違法薬物としての認識の有無については、司法関係者には有名な最高裁判例があります。
「違法なものとの認識があれば違法薬物だとの認識がなくとも違法薬物の故意がある」との判例です。加えて、故意は確かに犯罪と認識していた場合に限らず、もしかしたら犯罪かもしれないとの認識も故意があるとされています。
違法薬物所持の故意だと、もしかしたら違法かもしれないとの認識があれば、違法薬物所持の故意があることになります。
・未必の故意とは
犯罪かもしれないとの認識は刑法の用語で「未必の故意」と呼ばれています。
この事件に限らず、故意を争う場合においては、未必の故意と認識がなかったという場合とは微妙な違いですから、誤解されないように十分注意しなければなりません。
5.元アイドルの車内の大麻所持事件
元アイドルが大麻所持で逮捕され、懲役刑・実刑となることもなく、「処分保留」で釈放された事案があります。。
この場合の大麻の所持は、車内(車の床)に大麻があったというもので、直接身に着けていたり、持っていたりしたわけではないこと、自分のものではないと否認しました。
体内から大麻が検出されたものの、このコラムで取り上げたように、所持していたとされた大麻について、大麻所持の認識、故意の立証が難しいことがポイントとなりました。
そのため、客観的に所持といえるか難しいと検察官が判断して、処分保留で釈放となり、今後は任意捜査となったものと思われます。
6.大麻等の薬物事件も泉総合法律事務所へ
違法薬物事件の場合、違法薬物であることが科捜研の精密検査で判明すれば争う余地はありません。
争う余地があるとすれば本コラムで取り上げたように認識、故意の有無となりますが、認識、故意を検察官が裁判(公判)で立証することが容易でない、いいかえれば確実に有罪に持ち込めないと判断した場合には、不起訴とするのが通常です。検察官にとって無罪判決は絶対避けなければならないものだからです。
無罪判決を絶対避けるということは、冤罪を出さないということでもあります。その意味では、逮捕されたから必ず起訴されるわけではありません。
大麻等の薬物事件で逮捕された方やそのご家族は、まずは一刻も早く弁護士に相談する必要があります。
様々な調査や検査をしつつ最大20日間の勾留生活を過ごしながら取り調べを受け続けるのは、精神的にも大変な苦痛を伴います。
弁護士が接見し、励まし、被疑者ノートの差し入れやその他さまざまな助言をすることがとても大切なのです。
泉総合法律事務所では、薬物事件の被疑者の弁護活動も行っております。首都圏の東京、神奈川、埼玉、千葉などで多数の刑事事件弁護の解決実績がある泉総合法律事務所に、どうぞご相談ください。