薬物事件 [公開日]2020年5月25日[更新日]2021年3月4日

大麻所持と使用の罪の違いとその理由|所持せず使用とはどういうことか

皆さんご存知の通り、大麻(マリファナ)は違法薬物の1つです。大麻は大麻取締法により規制されているのですが、他の薬物犯罪と異なり、大麻の自己「使用」は処罰の対象となっていません

これは、大麻の使用が他の薬物の使用と比べて、有害性が低いからといった理由からではありません。

大麻の使用が禁止されず、所持や譲受のみ処罰対象となっている理由について、以下で詳しく説明します。

1.大麻取締法とは

大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品を言います。もっとも、大麻草でも、①成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)②大麻草の種子及びその製品は規制対象から除かれています(第1条)(後述しますが、この点が非常に重要です)。

大麻についての規制は刑法ではなく、大麻取締法により行われています。

禁止される行為は、輸出入、所持、栽培、譲受、譲渡等です。
大麻の合法化について度々話題になりますが、一部外国で許されている医療用大麻も日本では認められていません。

もっとも、許可を受けた①大麻研究者、②大麻栽培者は、一定の目的のために大麻の栽培等が許されます(第2条1項)。

大麻取締法に違反した場合の罰則は以下の通りです。

輸出入(第4条1項)、栽培(第3条1項)
非営利目的の場合:7年以下の懲役(第24条1項)
営利目的の場合:10年以下の懲役刑。情状により300万円以下の罰金が併科される可能性がある(第24条2項)

譲渡、譲受、所持(第3条1項)
非営利目的の場合:5年以下の懲役刑(第24条の2第1項 )
営利目的の場合:7年以下の懲役刑。情状により200万円以下の罰金を併科される可能性がある(第24条の2第2項 )

【薬物五法とは】
薬物五法とは、薬物を禁止する主な法律の総称です。五法とは以下の法律を言います。
①覚せい剤取締法
②大麻取締法
③あへん取締法(正式名称は「あへん法」)
④麻薬及び向精神薬取締法
⑤麻薬特例法(正式名称は「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例などに関する法律」)
違法薬物と言っても、違法薬物法などという法律が存在するわけではなく、薬物の性質に合わせて個別に規制がなされているのです。
参考:薬物事件を取り締まる法律の種類と刑罰

2.大麻使用は処罰されない?

1で大麻取締法について説明しましたが、大麻の自己使用自体は処罰の対象とされていません(※1)。

(※1)大麻取締法は「使用」を処罰対象としていないと言われることがありますが不正確です。同法は、大麻取扱いの免許を有する者が大麻を目的外で「使用」することや、一般人が大麻を「研究のため使用」することを禁止しています(第3条1項、2項)。これらに違反すると譲渡・譲受・所持と同じく、非営利目的の場合は5年以下の懲役(第24条の3第1項1号)、営利目的のときは7年以下の懲役刑、情状により200万円以下の罰金も併科されます(第24条の3第1項2号)。

覚せい剤やアヘン、麻薬等の自己使用は禁止されているのに、なぜ大麻の自己使用は処罰されないのでしょうか?以下で詳しく説明します。

(1) 大麻の用途は多岐にわたる

大麻は気分をハイにするなどの目的で、大麻を煙・樹脂・液体として体内に取り込んで自己使用するもの、と考えている方が多いと思います。

しかし、もともと我が国では、古来から大麻を宗教的儀式のために吸引したり、薬草として用いたり、その繊維を衣服に利用したりするなど、大麻を貴重な資源として活用してきた文化がありました。

現在でも、海外では医療用に大麻の部分的使用が行われています。日本においても大麻草の茎は麻織物に、種子は七味唐辛子に使用され続けています。

このような大麻を活用する実際上の必要性があり、しかも、後述のとおり、大麻には有害性がほとんどない部位があるため、大麻草の中でも、成熟した茎や種子は規制の対象となっていません。

つまり、大麻草の茎や種子を所持したり、譲受したりすることは処罰されないのです。

もっとも、輸入に関しては関税法(第69条の11第1項)で別途規制され、通達によって、熱処理などの発芽防止処置が要求されています(昭和40年8月16日通商産業省告示第426号)。

(2) 尿検査で不正使用か否かの判別は不可能

そうすると、大麻の種子などの有害性のない部分は規制対象外なのですから、それ以外の大麻の自己使用は禁止すれば良いと考えるかもしれません。

しかし、両者の区別は困難です。というのも、大麻の使用が尿検査で明らかになっても、大麻のどの部分を摂取したかが特定できないのです。

大麻にはTHC(テトラヒドロカンナビール)という成分があり、これが幻覚症状等の有害性を引き起こします。成分の量に程度はありますが(成熟した茎や種子にはほとんど含まれていない)、これは大麻草全体に含まれています。

そのため、大麻草の茎や種子が体内に入った場合でも、尿検査で大麻の陽性反応が出てしまう恐れがあるのです。

そうすると、尿検査で陽性反応=大麻を不正に使用、と断定することはできません。反対に、七味唐辛子を体内に入れた場合、これが微量であっても陽性反応が出ることがあり、正当な大麻の使用を委縮させることになりかねません。

そのような事態を避けるため、大麻に関しては自己使用を処罰対象から除外したのです(※2)。

(※2)ただし、大麻の自己使用が禁止されていない理由については諸説あり、ここに挙げたのは、そのひとつに過ぎません。この説明も、ある行為の証拠を得ることが難しいことは、その行為を犯罪としないことの理由にはならない、七味唐辛子の摂取を萎縮させたくないなら、尿検査を自己使用の採証手段としなければ良いだけだと批判する意見もあります。

大麻の自己使用を処罰対象から外しても、大麻所持罪等で処罰することが可能なため、大麻規制から逃れることとなるわけではありません。

3.所持せず使用とは?所持と使用の違い

大麻の自己使用は処罰対象から外れます。そのため、大麻を使用しても、「所持していない」と言えば捕まらないのでは?との疑問が浮かぶと思います。

所持とは、対象物を事実上支配している状態です。対象物を手で持っている、かばんに入れている、家のどこかに置いているといったケースは全て所持にあたります。

同居人が大麻を持ってきた場合でも、その事実を知っており、自分も自由に使用できたといった事情があれば、共同で事実上管理していたとして所持に該当すると判断されます(共同所持)。

大麻を使用する際には、それを一度所持、つまり、大麻を事実上の管理支配下に入れるのが通常です。そのため、使用したが所持していないということは、ほとんどの場合、あり得ませんから、所持罪で立件できれば、取り締まり目的は達成されるわけです。

また、尿検査で大麻成分が検出されれば、自己使用が犯罪でないとしても、押収された大麻を、「所持」していた事実を裏付ける証拠のひとつになります。結局のところ、尿検査で大麻成分が検出されたら、「使用したが所持していない」の言い分は通用しないので、その場で現行犯逮捕されることが多いでしょう。

[参考記事]

大麻の譲渡・譲受・売買の証拠って何?

4.薬物事件も泉総合法律事務所へご相談を

このように、大麻の自己使用が処罰されていないのは、大麻の性質や活用方法に配慮してのことであって、間違っても、「大麻は比較的安全だから自己使用罪が規定されていない」と考えて使用してはいけません。

大麻取締法違反やその他の薬物犯罪で逮捕・勾留されたり、起訴されてしまったという方、その家族も、薬物犯罪に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。無料相談も実施しております。

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