財産事件 [公開日]2018年1月20日[更新日]2021年6月3日

クレプトマニア(万引き癖)の特徴とは?診断基準・治療法と弁護方法

クレプトマニア(俗称としては窃盗癖または万引き依存症。正式な疾患名は窃盗症)という言葉をご存知でしょうか?
これは「万引きを止められない病気」です。

実は、これは国際的な基準が存在するほど有名な精神疾患です。日本にもこの病気で悩んでいる方が多くいらっしゃいます。

クレプトマニアの方は、何度も万引きを繰り返してしまう、つまり万引きがやめられないことが多く、そのままでは、犯行を重ねる度により重い刑が科せられることになります。

ここでは、クレプトマニアの原因や、具体的な症状や特徴、診断基準、治療方法について解説します。

1.そもそも万引きとは

「万引き」は、客を装って商店等に入り、店員に分からないように対価を払わずに商品を持ち去るという窃盗のひとつです。
刑法上の用語ではなく、犯罪としては刑法235条の「窃盗罪」にあたります。

万引きを含む窃盗行為は、一般的に「貧困で物を買うお金がない」「盗む対象となる物が欲しい」等といった合理的な説明のつく単純な動機・理由から行われます。

しかし、これから説明するクレプトマニアによる万引きは、そのような単純な動機・理由では合理的な説明がつかない犯行です。

2.クレプトマニアとは

クレプトマニアとは、万引きなどの窃盗行為の衝動を抑止できず、反復的に窃盗行為をしてしまう精神疾患です。

万引き行為が犯罪であり、見つかれば逮捕され刑罰を受けることを理解し、万引きを止めたいと思っているにもかかわらず、万引きをしたいという衝動・欲求を抑えて行動することができないのです。

クレプトマニアの発症原因としては、次の3つが指摘されています。

①機能不全家庭での生育……例えば、抑圧された子ども時代を過ごした者が摂食障害を起こし食品万引きを繰り返す結果、クレプトマニアとなってしまう例が多いとされています。
②性犯罪の被害体験……強制性交等罪などの被害者が摂食障害を経て、クレプトマニアとなる例も多いと言われます。
③発達障害……万引きが悪いという知識はあっても、それを実感できない障害がある場合、クレプトマニアになりやすい傾向にあるとされています。

また、クレプトマニアは摂食障害、うつ病、アルコール依存症などと併発することも多いと言われています。

このようなクレプトマニアが原因の万引きは、治療を受けなければそのまま犯罪を繰り返すことになります。

(1) 診断基準

クレプトマニアは精神疾患の一つですから、精神科医が問診を行って判断することになります。その際に使われるのが、DSM-5という診断マニュアルに記載されている診断基準です。

DSMはアメリカ精神医学会が作成している精神疾患・精神障害の分類マニュアル(正式には「精神障害の診断・統計マニュアル」と言います)で、精神疾患・精神障害の国際的な診断マニュアルとして使われています。DSM-5はその第5版になります。

DSM-5におけるクレプトマニアの診断基準は、次のようになっています。

  • 個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
  • 窃盗に及ぶ直前の緊張感の高まりを感じる。
  • 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感を感じる。
  • 盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものでもなく(つまり、例えば、店員の態度に怒って仕返しのために万引きをしたのではない)、妄想または幻覚に反応したものでもない(つまり統合失調症によるものではない)。
  • 盗みは、行為障害(※1)、躁病エピソード(躁鬱病)、または反社会性人格障害(※2)ではうまく説明されない。

 

※1:行為障害(素行症)とは、他人を省みず、罪悪感もなく、他者をいじめる、他者の所有物を壊す、盗む、嘘をつくなどの問題行動を繰り返す、小児に多い精神障害です。
※2:反社会性人格障害とは、自己の利益、快楽のために違法行為等を繰り返し、良心の呵責を感じない精神障害であり、クレプトマニアとは別個の精神疾患に分類されています。他者に対して攻撃的で、過度に自己評価が高いなどの特徴が指摘されています。

なお、DSM-5における診断基準はあくまでひとつの目安であり、絶対の基準ではありません。また、その患者の刑事責任を決めるための基準でもありません。
盗品を自分で実際に使っているケース、貧しくてお金を節約したいという動機があったケース、欲しいと思ったから万引きしたというケースでも、クレプトマニアと診断される場合があります。

ポイントは行為の合理性と反復性です。

例えば、たくさん食品を万引きして自分で食べるたびに吐いてしまう例があります。あるいは「お金を節約したい」「その商品が欲しい」と万引きした場合でも、客観的には、その商品が格別その人にとって何の必要もない商品であるという場合もあります。
このような不合理な万引きは、クレプトマニアと診断される可能性が高くなります。

また、逮捕された万引き行為については診断基準を満たさないものの、これまで何度も不合理な万引き行為を繰り返してきた事実があるなら、やはりクレプトマニア疾患による行為の一部と評価できます。

クレプトマニアか否かは、その人間が病気かどうかを判断するものですから、個々の行為ではなく一連の行為全体を観察して判断するべきなのは当然だからです。

(2) 治療方法

クレプトマニア専門の医療機関は、東京、神奈川などの首都圏でも少しずつ増えてきています。 

クレプトマニア専門病院に入通院すれば、そこで受診し専門的な治療プログラム(自助グループ内の交流と情報共有、専門医のカウンセリング)を受けることができます。

ただし、治療は裁判のために行うものではありませんし、入通院し治療を受けたからといって裁判で執行猶予などの減刑が必ず得られるという保証はありません

泉総合法律事務所では、医療機関での治療に関するアドバイスは行いますが、最終的な御判断は被疑者と家族にお任せしています。

3.クレプトマニアによる万引き事件の弁護

クレプトマニアだからといって、窃盗が無罪となるわけではありません。
そこで、クレプトマニアによる万引き事件の弁護活動等を解説します。

(1) 万引きを繰り返した場合の刑罰

一般に万引きは、初犯やせいぜい2回目の犯行までは(被害が少額で、商品を買い取ったり、弁償金を支払って、損害を補てんすれば)不起訴の確率が高いでしょう。

しかし、おおむね3回目からは、少額の万引きでも起訴されて、少なくとも罰金刑となり前科がついてしまうことが多いです。

そして、4回目以降ともなれば、懲役刑となる可能性が高く、執行猶予がついても、猶予期間中に再度万引きをしてしまうと、再度の執行猶予を得ることは非常に困難となり、服役を余儀なくされてしまいます(なお、以上の「何回目」というのは、あくまでも例であり、回数だけが基準となるわけではありません)。

(2) クレプトマニアの弁護方針

まず、クレプトマニアに限らず、万引き事件では被害者の方と示談することが重要です。

検察官は示談の成立の有無も起訴するか否かの考慮要素とするため、示談が成立していると、不起訴となったり執行猶予を獲得できたりする可能性があるのです。

もっとも、店によっては一律示談に応じてくれないこともあります。その場合は、贖罪寄付などを行うのが良いでしょう。

[参考記事]

贖罪寄付・供託により本当に情状が考慮されるのか?

次に、クレプトマニアの万引きの場合、弁護士が次の主張を行い、捜査段階では検察官、公判段階では裁判官の理解を得る必要があります。

  • 被疑者・被告人がクレプトマニアに罹患していること
  • 本件の万引き行為は、クレプトマニアの疾患により、刑事責任能力のうち、自己の行動制御を制御する能力が失われたか、相当に低減していた状況で行われたものであるから、心神喪失として無罪であるか、心神耗弱による減刑がなされるべきであること
  • 仮に完全な責任能力が認められたとしても、疾患が影響を与えた犯行である以上、量刑を軽くするべき情状にあたること
  • 責任能力の有無、程度にかかわらず、服役による刑罰よりも、治療を優先することが適切であること

クレプトマニアであることを理由に責任能力を否定した最高裁判例はまだありませんが、万引きを止められない病気によって犯罪が行われることがあり、刑事責任を考えるにあたって考慮されなくてはならないという点は、もはや裁判所の共通認識となっており、刑の軽減、罰金刑の選択、執行猶予判決という結果に結びついています。

このような成果を得るためには、次の証拠、事実を提示できることが必要です。

  • 本人が治療を受けて疾患を治すという強い決意をもっていること
  • 実際に入院通院をしている事実
  • 家族や職場など周囲が、疾患に理解を示し、治療に協力していること
  • クレプトマニアである旨の医師の診断書(鑑定人の鑑定書を含む)
  • 治療が有効であり、かつ効果があがっているとの医師の意見書や証言(鑑定人の鑑定書や証言を含む)
  • 治療により万引き行為はストップしていること

以上のようなクレプトマニアに対する弁護活動は、一般の万引き犯、窃盗犯についての弁護と異なり、クレプトマニアを含む精神疾患全般に関する知識があり、かつ、裁判という枠を超えて、被疑者・被告人に寄り添い続け、その病気を治すことに情熱を持つ弁護士でなくては到底務まりません。

4.窃盗(万引き)の刑事弁護は弁護士へ

泉総合法律事務所は、様々な刑事弁護の経験が豊富な弁護士が多く在籍しており、窃盗事件、クレプトマニアを含む万引き事件の弁護も多数経験がございます。

[解決事例]

万引き常習犯、数か月前にも万引きで罰金刑になったばかり

クレプトマニアは放置しても治りませんし、自分一人で解決するのは困難です。窃盗・万引きを繰り返してしまうという方は、実刑判決となってしまう前に(できれば万引きで最初に検挙された時点で)、お早めにクレプトマニア事件に精通している泉総合法律事務所にご相談ください。クレプトマニアは治らない病ではないので、治療も含めて早期に対応します。

家族の支援も重要となってきますので、クレプトマニアの方のご家族の方も、早めにご相談ください。

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