刑事事件弁護 [公開日][更新日]

給料・賃金・残業代未払いで刑事告訴されそう!?

給料・賃金未払い、残業代未払いで刑事告訴されそう!?

【この記事を読んでわかる事】

  • 給料、賃金未払い、あるいは残業代未払いが犯罪になる?
  • 未払いの罪はどのような刑罰が与えられるのか
  • 賃金を支払ってもらえない被害者の方ができること

 

給料・賃金未払い、あるいは残業代未払いが犯罪になるということはご存知でしょうか?

ここでは、特に、給料・賃金の未払いに関し、労働基準監督官の役割、さらに、使用者と労働者双方の視点から、どうすればいいか、また、付加金の支払いなどについても解説をしていきます。

なお、以下では、労働基準法を「労基法、あるいは法」と略記し、労働者は法9条、使用者は法10条の定義によっています。

1.給料・賃金未払い、残業代未払いは何罪?

(1) 労基法違反の罪

労働基準法24条は、賃金の支払いについて、

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」(1項本文)
「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」(2項本文)

と規定し、賃金の支払いに関する5原則

①通貨払いの原則、②直接払いの原則、③全額払いの原則、④毎月払いの原則、⑤一定期日払いの原則

を定めています。

しかしながら、同条1項ただし書では、法令等に別段の定めがある場合などには、上記①ないし③につき、その例外が認められる旨、また、同条2項ただし書では、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、上記④・⑤につき、その例外が認められる旨、それぞれ規定されています。

また、残業代(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の支払いについては、法37条に規定されています。

なお、給料・賃金や残業代の未払い請求権は2年で、退職金の未払い請求権は5年で、それぞれ時効によって消滅します(法115条)。

法24条に違反した者は、30万円以下の罰金に処せられます(法120条柱書・1号)。

また、残業代の未払いに関し、法37条に違反した者は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(法119条柱書・1号)。

のみならず、いわゆる両罰規定によって、違反の実行行為者と事業主(当該事業の経営主体、つまり個人企業の場合はその企業主たる個人を、法人企業の場合は法人それ自体をいいます。)の両者が処罰されます(法121条)。

すなわち、事業主の代理人(委任を受けた弁護士を含みます。)や使用人が法24条あるいは法37条の違反行為をしたときには、その行為者が処罰されるだけでなく、その事業主(法人、自然人のいずれも含みます。)に対しても上記各条の罰金刑が科せられます(法121条1項本文)。

(2) 詐欺罪

最初から給料・賃金を支払う意思がないのに、使用者が労働者を雇用して労務を提供させた場合には、刑法246条2項の「人を欺いて、財産上不法の利益を得た」ものとして、2項詐欺罪が成立します。

この場合、10年以下の懲役が科せられます。

しかし、使用者が、最初から給料・賃金を支払う意思がなく、騙して働かせたという立証が必要ですので、その立件は難しいものと思われます。

2.労働基準監督官の役割

(1) 権限内容

労働基準監督官は、行政上の権限として、給料・賃金未払いの労基法違反を取り締まるため、事業場などを臨検し、帳簿等の提出を求め、必要な尋問を行うことができます(法101条1項)。

また、労働基準監督官は、給料・賃金未払いの労基法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うことができますので(法102条、刑事訴訟法190条)、逮捕(現行犯、緊急あるいは通常逮捕)、逮捕の際の令状によらない差押え・捜索・検証、令状による差押え・捜索・検証を行う権限があります(その他、法96条の3等)。

(2) 具体的な権限の行使

①行政上の権限

労働者は、給料・賃金未払いの労基法違反がある場合には、労働基準監督官に行政指導を求めること(申告)ができます(法104条1項等)。

これを契機として、労働基準監督官が事業場に臨検するほか、使用者に来署を求め、直接、事情を聴取するなどの方法により事実関係の確認を行い、その結果、給料・賃金未払いの労基法違反が認められる場合には、是正を図るよう指導監督を行います。

②捜査上の権限

指導監督の結果、是正勧告を受けた給料・賃金未払いの労基法違反を是正しないなど重大・悪質な事案については、上記⑴のように、捜査上の権限を行使します。

そして、必要な捜査を終えた後、送検、すなわち書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致します(刑事訴訟法246条)。

3.使用者目線

(1) 前提

使用者が、労働者の給料・賃金の未払いがある場合、刑事告訴されるおそれがありますが、法的には、下記4のように、刑事責任と民事責任の両方を追及される可能性があります。

(2) 刑事責任

給料・賃金未払いがある場合、上記2の⑴・⑵②のように、逮捕あるいは送検される可能性があります。給料・賃金未払いの労基法違反の罰則としては、上記1の⑴のとおりです。

事業主への処罰は、事業主(法人の場合はその代表者)が、人員や予算などの面で違反の防止に必要な具体的措置を講じていたときに限り、免れ得るにすぎません。

ただ、現実的には、原則として、送検前に労働基準監督署からの指導で未払い給料・賃金問題の解決が図られているようです。

また、仮に、労働基準監督官が重大・悪質な事案と判断し、事件を送検した場合でも、検察官が、更に追加的な捜査を行い、当該事案の重大・悪質性等を考慮して、当該事件を起訴するかあるいは不起訴とするかの最終的な判断を行いますが、労基法違反の事件は、不起訴処分となることが多いのが実情とされています。

(3) 民事責任

①遅延損害金の支払い

未払い給料・賃金(残業代も同様)については、年6%の遅延損害金を支払わなければなりません(商法514条。ただし、営利企業以外の場合は、民法419条1項、404条により年5%。なお、改正民法施行後は、改正民法419条1項、404条2項により年3%)。

また、退職労働者の未払い給料・賃金については、遅延利息が年14.6%と定められています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項、同法施行令1条)。

②付加金の支払い

使用者が、解雇予告手当(法20条)、休業手当(法26条)、割増賃金(法37条)の支払義務に違反した場合、又は年休中の賃金(法39条7項)を支払わなかった場合には、裁判所は、使用者に対して、労働者の請求により、その未払金に加えて、これと同一額の付加金の支払いを命ずることができます(法114条)。

このように付加金の支払いは、裁判所の裁量的命令として規定されていますので、付加金支払い義務は、裁判所の命令(裁判)があって初めて発生します。

すなわち、労基法違反(及び労働者の請求)により当然に発生するものではなく、裁判所は、使用者による同法違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等諸般の事情を考慮して支払い義務の存否及び額を決定すべきものとされています。したがって、その遅延損害金支払い義務は裁判確定時より生じ、損害金の額は年5%の割合で算定されます(民法419条1項、404条。なお、改正民法施行後は、改正民法419条1項、404条2項により年3%)。

また、裁判までの間に違反状態が除去されれば(例えば、使用者が未払いの解雇予告手当を支払ってしまえば)、裁判所は付加金の支払いを命ずることはできません。

付加金の請求は、違反のあった時から2年以内にしなければなりません。この2年という期間は時効期間ではなく、除斥期間と解されています。

4.労働者目線

(1) 刑事責任を追及する流れ

労働者は、給料・賃金の未払いについて、口頭による交渉でも解決が得られない場合、内容証明・配達証明付きの書面で請求することが考えられます。

そして、給料・賃金未払いは、法24条違反になることが多いことから、その使用者を管轄する労働基準監督署に相談するのが一般的と思われます。労基法違反が認められる場合には、上記2の⑵①のように、是正を図るよう指導監督が行われます。

なお、労働基準監督署の是正要求などにも応じない使用者に対しては、労働基準監督官宛に「告訴状」が提出される可能性があります。

その結果、上記2の⑵②のように、重大・悪質な事案については、逮捕あるいは送検されることになります。また、上記1の⑵の詐欺罪で告訴することも考えられます。

(2) 民事責任を追及する流れ

使用者との交渉については、労働組合があれば団体交渉を通じて、給料・賃金未払いの解決が図られる可能性があります。

しかし、解決が得られない場合、労働基準監督署は、給料・賃金未払いが認められるとしても、使用者の財産を差し押さえることはできません。

そのため、労働者が、最終的に、強制執行により、給料・賃金未払い分を回収するためには、勝訴判決等の債務名義を得なければなりません。

債務名義を得るための裁判手続としては、支払督促、少額訴訟、通常訴訟、民事調停などが考えられます。

しかし、裁判手続によらざるを得ない場合、証拠の収集、適切な法的手続の選択など困難な事例も多く、法律のプロである弁護士に依頼するのが望ましいといえます。

5.刑事事件の解決はスピードが勝負

今回の賃金未払いを例に取っても、まさか自分が刑事事件の被疑者になるとは思ってもいなかった、という方が、被疑者の中の大半だと思います。

もし、刑事事件で検挙されてしまったら、お早めに刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。刑事専任の弁護士が、様々な刑事事件につきまして、被疑者の方をサポートさせて頂きます。

刑事事件コラム一覧に戻る