駆け出し弁護士時代の窃盗事件 示談で懲役を回避
駆け出し弁護士時代の窃盗未遂の弁護を話したいと思います。
代表弁護士を務めています泉と申します。私が弁護士登録して間もないころに取り組んだ刑事弁護のことを話してみたいと思います。
1.はじめに:窃盗で逮捕された場合の刑事弁護
国選事件で、当時は弁護士会に行って国選事件を受任する仕組みでした。現在は法テラスにて国選事件を受任する仕組みに代わっています。
私が受任したのは事務所荒らしの建造物侵入窃盗未遂で逮捕された事件でした。窃盗には様々なものがありますが、万引きなど被害金額が軽微な刑事事件は示談できなくとも略式起訴と言って正式裁判を行わず罰金を支払って刑事事件は終了となります。
罰金も前科
もっとも、罰金も刑罰ですから前科がつきます。罰金刑を免れるためには弁護士に依頼して被害者と示談交渉をして示談を取り付ける必要があります。
被害金額が高額な場合や金額が軽微でも犯行の手口が悪質な場合には、起訴前に示談できればともかく(示談できても起訴されることもあります)、簡易裁判所か地方裁判所に起訴され、正式裁判を受け、有期懲役に処せられる場合もあります。
2.起訴された窃盗未遂の余罪がある場合の弁護方針
(1) 余罪の数が30件近く!全件の示談交渉を開始
受任当初、被告人に接見して詳しく話をする前は、建造物侵入窃盗未遂1件でしたので、示談すれば確実に執行猶予判決であり、示談できなくとも執行猶予は可能で懲役に処せられる事案ではないと判断しました。
そこで、示談のために被害者の連絡先を警察の担当刑事に聞くために連絡をしたところ担当の係長刑事からこの件以外に余罪が30件近くあることを聞かされたのです。
私は1件の事件と考えて受任したので余罪が30件もあると聞き大変驚きました。(なお、性犯罪で逮捕された場合は、警察は弁護士に対しても連絡先を教えてくれません。性犯罪などの場合には検察官が被害者に連絡して了解を得て弁護士に連絡先を教えてくれる仕組みになっていますが、性犯罪以外の場合には検察官でなくとも警察官が弁護士に連絡先を教えてくれることが多いといえます。)
警察の係長刑事からは余罪をできるかぎり立件する方針であると聞かされ、そうなるといわゆる事務所荒らしは1件あたりの被害金額が大きいこともあり、執行猶予は厳しい、実刑の可能性が高いと考えました。
家族との話し合いをしたところ6割程度の返済原資があるとのことでしたので、30件近い余罪を全部示談することにしました。
(2) 一括払いではなく分割払いにする工夫
どこまで余罪を示談すべきか迷い友人弁護士にも相談して、数件でも実刑を回避し執行猶予をとれるのではとの意見ももらいましたが、数件の示談だけで実刑となったら国選であっても取返しがつかないことになるし、後悔するだろうと考えて、30件近い余罪を全件示談交渉しようと決めました。
返済原資は全額を返済できるほどはなかったことから、一部を一括払いして残金を分割払いにする形しかありませんでした。
通常、示談は全額一括払いにするもので分割払いの示談は約束通り実行されない可能性があるので行いません。そのため、被害金額全額での示談でないと検察官や裁判官は厳しく評価します。
しかし、この件では弁済原資に限りがあったこととまだ立件されていない余罪であることからその点は立件された場合とは示談のあり方が異なっても評価されると考えて、一部分割払いの示談でもやむを得ないと判断しました。
(3) 被害弁償&和解のため、東京都、千葉県、埼玉県へ
当時はいわゆるイソ弁でしたので、勤務中に被害会社に連絡を入れて示談のお願いの連絡をして示談のための日程調整をして、勤務が終わってから東京都内、千葉県、埼玉県の各地に時には深夜まで被害会社に出向いて犯行に至る事情や被告人の置かれている状況、被告人の厳しい生い立ちや家族状況などを伝えて示談のお願いをしました。
平日だけでなく、被害会社の都合で土日にも示談交渉を行いました。1回の示談交渉で示談いただける被害会社はごく少数で、大半は2,3回かそれ以上の示談交渉を行いましたが、示談をしていただける被害会社もあれば示談していただけない会社もありました。示談に応じていただけない被害会社には被害金の受領、被害弁償をお願いして応じていただきました。
被害弁償では被害届を出す余地を残します。他方、示談は被告人の刑罰を望まないとの宥恕(ゆうじょ)文言や被害届を出さない、出している場合には被害届を取り下げるとの文言を入れていますので、刑事事件として立件されないことになります。
起訴された被害会社は窃盗未遂で被害はなかったのですが、何度か示談のお願いに伺いましたが、示談には応じてもらえず、被害弁償も受け付けていただけませんでした。
3.今も印象に残る示談書の取り交わし
今でも印象に残っているのは、ある被害者のご家庭の事情から、被告人の生い立ちに深く同情していただき、示談金を辞退されて示談書を取り交わしていただき、そればかりか被告人のために使ってほしいと金銭をいただいたことです。その金銭は他の被害者の示談金に使わせていただきました。
4.追起訴もなく、実刑を回避し執行猶予判決へ
全件ではありませんが約30件近くの示談、被害弁償を取り付けたことで警察の担当係長刑事から余罪捜査をせずに済んだと感謝され余罪の追起訴もありませんでした。このような弁護活動の結果、判決は保護観察付5年の執行猶予付有罪判決でした。
保護観察が執行猶予につき、かつ猶予期間が5年という判決は実刑判決があってもおかしくはない判決であることを意味します。無罪はもとより実刑と執行猶予とでは天と地の違いがあることから、刑事弁護では民事弁護とは違った意味合いで逮捕された被疑者、被告人のために「戦い抜こう」という気持ちが沸き上がってきます。
この沸き上がる気持ちを感じるからこそ、当弁護士法人は、民事事件とともに刑事事件に力をいれ、どの弁護士にも刑事弁護を担当させています。
5.国選弁護の弁護活動は弁護士によって異なる場合がある
約30件の示談取り付けに1ヶ月以上東京、千葉、埼玉各地域を土日も含めあちこち出向きかなりの時間数を費やしましたが、国選報酬は1件の場合と同じで、努力が報われない心情をいだきましたが、それ以上に得るものがあったとも思っております。
現在では国選は被疑者段階からすべてではないですが、大半の事件に国選弁護人がつくことになっており、国選報酬もかなり改善されたと聞いていますが、刑事弁護結果いかんにかかわらず国選報酬は変わらないこともあるかもしれません(ただし、接見回数に応じて増額はあります)が、弁護士によって国選弁護人としての弁護活動のあり方は違うと聞いております。
当所では、国選弁護人の弁護活動への家族の思い考えがあって当所弁護士の私選弁護に切り替えたいとのご家族は結構いらっしゃり、実際当所弁護士が国選弁護人にかわって刑事弁護活動をすることが少なからずあります。
6.国選弁護人と私選弁護人の違い
(1) 刑事弁護に精通した私選の弁護士にご依頼を
国選弁護人は裁判所に選任され、被疑者被告人やその家族に選任されるものではありません。ですから、国選弁護人を被疑者被告人が選ぶということはできません。
家族への連絡なども裁判所に選任されたとの考えがあるためか国選弁護人の方はあまり対応してくれないとの声も実際あります。
私はこの事件では30件近い余罪の示談、被害弁償取り付けを国選弁護人として取り付けましたが、通常は国選弁護人でここまでやる方はいないのではないかと思います。
もっとも大きく重要な違いは、国選弁護人は特に東京の弁護士ですと民事事件中心に弁護士業務を行っており、国選弁護人を担当する機会が少ないことから、刑事弁護に精通している弁護士があまり多くないことがあげられます。
容疑を争っている否認事件では一般論ですが刑事弁護経験の豊富な弁護士に依頼するに越したことはありません。
(2) 10日間勾留を阻止! 私選弁護人のメリット
容疑を争っていない自白事件であっても、起訴前の被疑者段階では、逮捕された場合に10日間の勾留を阻止する活動を早急に行う必要があります。そのためには複数の刑事弁護経験の豊富な弁護士が迅速対応するに越したことはないのですが、国選弁護人は1名のため、また、通常の弁護業務で予定が埋まっている場合には迅速に対応できない可能性があります。
私選弁護ですと、そのような勾留阻止活動を必要とする場合には、当所の場合ですと刑事弁護を担当する弁護士が多数おりますので、すぐに対応できる弁護士がおり、実際に検察官の勾留請求を阻止したり、裁判官の勾留決定を阻止したりしております。
(3) 準抗告に取り組むか、取り組まないか
裁判官の勾留決定がくだされた場合には、その勾留決定の取り消しを求めて、3名の裁判官からなる裁判所に準抗告という裁判を申し立て、勾留決定の取り消しを求める弁護活動を行います。
この勾留決定取り消しを求める準抗告が認められる可能性は低いのですが、4週間連続で4回勾留決定を取消す準抗告が認められて釈放され、会社を解雇などされないですんだこともあります。
国選弁護人の場合は準抗告まで取り組んでくれるかどうかは国選弁護人の判断に左右され、被疑者本人や家族の意向が考慮される保証はないと言っていいかと思います。
(4) 刑事事件は私選弁護人がおすすめです。
10日間の勾留が確定した場合には、個人が被害者の場合では、弁護人が被害者と示談交渉をして示談を取り付けた時は、示談書をその日に検察官に提出すれば時間がはやければその日のうちに、時間がおそければ翌日釈放され自宅に帰り職場復帰することができます。
私選弁護人の場合には迅速に示談交渉に取り組みますので、示談に応じていただければ早期釈放の可能性が高くなります。国選弁護人の場合には、迅速に示談交渉に取り組んでくれるかどうかは国選弁護人次第ということになります。
7.刑事弁護は泉総合法律事務所にお任せください
刑事事件の弁護においては、上記に述べたように、経験豊富な弁護士に依頼することが大切です。刑事事件は時間との勝負になることが多くなりますので、ご家族が逮捕された場合などは、東京、神奈川、埼玉、千葉など首都圏に展開しておりますので、早急に泉総合法律事務所までご相談ください。