47年ぶり最高裁判例変更?強制わいせつ罪成立に「性的意図」必要か

法律

47年ぶり最高裁判例変更?強制わいせつ罪成立に「性欲意図」必要か

1.はじめに

最高裁は、2017年6月7日、わいせつな行為をしても性欲を満たす意図がなかった場合に、強制わいせつ罪が成立するかどうかが争われた裁判について、大法廷で審理することを決めました。

このことにより、強制わいせつ罪の成立に必要とされていた「性欲を満たす意図」について、1970(昭和45)年1月29日の最高裁判決(刑集24・1・1。以下「1970年の最高裁判決」といいます。)が見直される公算が大きくなりました。

まず、1970年の最高裁判決とは、どのような事実関係の下で、何が問題とされ、第1審、控訴審、そして最高裁ではどのような結論が導き出されたのか、最高裁の結論も、多数意見と少数意見が3対2というものですので、それぞれの意見の違いを理解した上、1970年の最高裁判決後の裁判例及び学説の動向を概観してみましょう。

そして次に、今回の見直しのきっかけとなった強制わいせつ事件について確認し、見直された場合にどのような影響が考えられるのかなどについて検討することとします。

2.1970年の最高裁判決は性的意図必要説

⑴ 事実関係

被告人は、内妻が被害女性の手引により東京方面に逃げたものと信じ、これを詰問すべく被害女性を呼び出し、内妻と共に被害女性に対し「よくも俺を騙したな、俺は東京の病院に行っていたけれど何もかも捨ててあんたに仕返しに来た。

硫酸もある。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」と申し向けるなどして、約2時間にわたり被害女性を脅迫し、同女が許しを請うのに対し同女の裸体写真を撮ってその仕返しをしようと考え「5分間裸で立っておれ。」と申し向け、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影した。

⑵ 第1審判決

本件は前記判示のとおり報復の目的で行われたものであることが認められるが、強制わいせつ罪の被害法益は、相手の性的自由であり、同罪はこれの侵害を処罰する趣旨である点に鑑みれば、行為者の性欲を興奮、刺激、満足させる目的に出たことを要する所謂目的犯と解すべきではなく、報復、侮辱のためになされても同罪が成立するものと解するのが相当である。

⑶ 控訴審判決

報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行った被告人に、その性欲を刺激興奮させる意図が全くなかったとは俄かに断定し難いものがあるのみならず、たとえかかる目的意思がなかったとしても本罪が成立することは、原判決がその理由中に説示するとおりである。

※第1審、控訴審は、性欲を刺激興奮させ、又は満足させる等の性的意図がなくても、婦女に報復し、又はこれを侮辱し、虐待する目的意図で、婦女を脅迫して裸体にさせて写真撮影した行為には、強制わいせつ罪が成立するとしたと解されます。

⑷ 最高裁判決

強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、又は、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない。

⑸ 少数意見

強制わいせつ罪は、個人の性的自由を保護法益としている。行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮又は刺激させたか否か、行為者自身又は第三者の性的羞恥心を害したか否かは、強制わいせつ罪の成立に何ら影響を及ぼさない。

強制わいせつ罪が成立するためには、行為者(犯人)がわいせつ行為に当たる事実を認識し、13歳以上の男女に対しては暴行又は脅迫をもって、13歳未満の男女に対してはその有無にかかわらず、これを実行すれば必要にして十分である。

そして、わいせつ行為とは、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり、ある行為がこの要件を充たすものであるか否かは、その行為を、客観的に、社会通念に従って、換言すれば、その行為自体を普通人の立場に立って観察して決すべきものである。

けだし、このような行為が、性的自由の意義を正しく理解し得ないと考えられる13歳未満の男女に対して行われたり、13歳以上の男女に対しては暴行脅迫の手段をもって行われたりすれば、それだけで個人の性的自由が侵害されることになるからである。

強制わいせつ罪は、これを行為者(犯人)の性欲を興奮、刺激、満足させる目的に出たことを必要とするいわゆる目的犯ではない。たとえ、動機ないし目的が報復、侮辱、虐待であったとしても、その一事は何ら強制わいせつ罪の成立を妨げるものではない。

3.1970年の最高裁判決後の裁判例及び学説の動向

そもそも「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」(最判1951[昭和26]年5月10日)とされ、その上で、1970年の最高裁判決は、「専ら報復又は侮辱虐待の目的をもって婦女を脅迫し裸にして撮影する行為と強制わいせつ罪の成否」(判示事項)に関し判断したものですが、その後の裁判例(東京地判昭62年9月16日判タ670・254)は、行為の客観的意味(性的に意味のある行為)の認識さえあれば強制わいせつ罪が成立すると判断しており、性的意図不要説に立ったものと評価されています。

性的意図不要説が通説であり、このような裁判例や学説の動向を踏まえて、近時、傍論ながら本罪の保護法益から説き起こして性的意図を不要とする判断を示した裁判例(東京高判平26年2月13日公刊物未登載)も出ていたのです。

そして、このような流れからすれば、強制わいせつ罪の保護法益を被害者の性的自由(性的行動をする自由、しない自由と理解すべきと考えられます)と理解すれば、犯人に性的意図のあることを要求することにはならないと解されることになります。

4.今回の見直しのきっかけになった強制わいせつ事件

47年ぶり最高裁判例変更?強制わいせつ罪成立に「性欲意図」必要か

⑴ 事案の概要

  1. 被告人は、2015年1月、自宅において、当時7歳の女児に対し、自己の陰茎を触らせ、口にくわえさせたほか、同児の陰部を触るなどのわいせつな行為をした。
  2. その際、その様子をスマートフォンで撮影し、スマートフォンの内蔵記録装置に記録して保存するなどし、児童ポルノを製造した。
  3. その画像データを知人が使用するスマートフォンに送信して提供した。

⑵ 被告人・弁護人側の主張

金に困って知人から金を借りようとしたところ、金を貸すための条件として、被害女児(娘)とわいせつな行為をしてこれを撮影し、その画像データを送信するように要求された。

そこで、わいせつな行為をしているような演技をしてスマートフォンで撮影し、知人に送信した。その目的は金を得ることにあった。

⑶ 第1審判決

強制わいせつ罪の保護法益は、被害者の性的自由であり、犯人の性的意図の有無によって、被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられない。

犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく、同罪の成立にこのような特別の主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しない。客観的にわいせつな行為がなされ、犯人がそのような行為をしていることを認識していれば、強制わいせつ罪が成立する。

⑷ 控訴審判決

第1審判決を支持した上、最高裁判例の判断基準を現時点において維持するのは相当ではないと考える。

※第1審、控訴審は、犯人の性的意図は強制わいせつ罪の構成要件ではないと判断し、客観的な行為態様から、強制わいせつ罪の成立を認めたものと解されます。そして、その理由は、上記2⑸のとおり、1970年の最高裁判決の少数意見に沿ったものとなっています。

⑸ 上告理由

控訴審判決には、「強制わいせつ罪に性的意図は不要とした点」、「強制わいせつ罪の『わいせつ』の定義を『被害者の性的自由を侵害する行為』とした点」などに関し、判例違反・法令違反などがある。

⑹ 最高裁における主な争点

強制わいせつ罪は、暴行脅迫を用いたか否かの点を置けば、わいせつな行為をしたか否かが犯罪の成否を決めることになります。したがって、わいせつな行為とは何かが争点になります。

すなわち、行為者が「性欲を満たす意図」で行う行為がわいせつな行為なのか(性的意図必要説)、あるいは、行為者に「性欲を満たす意図」は必要ではなく、行為者が客観的に性的自由を侵害する行為をしていると認識している行為がわいせつな行為なのか(性的意図不要説)が、問題になることになります。

5.性的意図不要に見直された場合の影響

⑴ いじめで裸の写真を撮る行為
判例が変更されれば、強制わいせつ罪に問える可能性が出てきます。

⑵ 医師の診療行為
性的意図の有無を基準にしないと判断が困難になるとの指摘があります。

⑶ 特殊な性癖を持つ者の行為
行為者に、下記のような特殊な性癖(SM嗜好、フェティシズム行為、サディズム行為など)があっても、性的意図不要説に立てば、単なる暴行罪や傷害罪、器物損壊罪にしか問えないのではないかという指摘もされています。

  1. 乳幼児に性的興奮を覚える者が、乳幼児に触れたりする行為
  2. 相手に苦痛を与えることで性的興奮を覚える者が、女性を殴打する行為
  3. 嘔吐する姿に性的興奮を覚える者が、女性の口に無理やり指を突っ込んで嘔吐させる行為
  4. 足の裏や指先を舐めることで性的興奮を覚える者が、女性の靴を無理やり脱がす行為
  5. 精液や尿をふりかけることで性的興奮を覚える者が、あらかじめ瓶に入れた自分の精液や尿を通りすがりの女性にふりかける行為
  6. 射精や放尿することで性的興奮を覚える者が、寝ている女性に射精や放尿する行為

6.その他

上記5のように、性欲を満たす意図の有無を基準にしないと、判断が困難になる事案について、最高裁がどのように整理するのかが注目されます。

そして、最高裁が、1970年の最高裁判決を見直し、「強制わいせつ罪の保護法益は性的自由であり、犯人の性的意図の有無によってその侵害の有無が左右されることはない」との判断を示した場合には、特に、裁判員裁判への影響が考えられます。

すなわち、強制わいせつ罪の主観的要件が一つ減ることにもなり、判断の対象がより単純化されますので、審理期間も短縮され、裁判員の負担の軽減にもつながるからです。

7.おわりに

強制わいせつ罪は重い性犯罪であり、今回の見直しについては専門家内でも肯定の声が強いです。

もし強制わいせつなどの性犯罪を犯してしまった場合には、お早めに刑事事件の弁護経験豊富な泉総合法律事務所までご相談ください。

参考:家族が強制わいせつで逮捕された場合、どのような弁護活動がされる?

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